ぽんぽこぽんとこんこんこん
御恵璃緒
【短編】ぽんぽこぽんとこんこんこん【完結済】
山のふもと、古びた神社の石段。
たぬきときつねが、にらみ合っていた。
「勝負だ!」
「望むところだ!」
何の勝負かは決まっていない。だが二匹は、なぜか本気だった。
たぬきが煙を上げる。
「どうだ!俺は立派な人間様に化けたぞ!」
……耳も尻尾も丸出しで、腹はたぬき腹のまま。
「すごい!人間そのものじゃないか!」
きつねが感動して拍手した。
次はきつねの番。
煙のあとに現れたのは、四本足のままの“人間”。
「俺は美しいお姫様だ!」
「ひゃあ、まぶしい!」
通りがかった村人は「茶番だ」とつぶやいて立ち去った。
「なあ、実はお前、人間だろ?」
「そういうお前こそ、人間だろ?」
真顔で言い合う二匹。
お互い完璧に化けていると思い込んでいる。
「俺は見抜いてたぜ」
「俺も最初から気づいてたけど黙ってただけだ」
……何を気づいたのかは、誰にもわからない。
「よし、俺は殿様に化ける!」
「じゃあ俺は姫様だ!」
「殿様には家来がいる!」
「姫様には侍女が必要だ!」
二匹は一人何役も演じはじめた。
殿様も家来も馬も門番も全部たぬき。
姫様も侍女も吟遊詩人も全部きつね。
「殿様!姫様が危ないです!」
「俺が守る!」
「いや俺が守る!」
「キャー助けてー!」
境内は大所帯の芝居小屋と化した。
観客はカラス一羽だけだった。
「都会で化けてみよう!」
二匹は町へ降り、コンビニに挑んだ。
たぬきはエプロンを巻き「俺は店員だ!」。尻尾は丸見え。
きつねは財布を出し「俺は客だ!」。中身は落ち葉。
「温めますか?」
「落ち葉を?」
「もちろんだ!」
電子レンジで落ち葉が回り始め、店員のお兄さんは固まった。
次は学校。
「俺は生徒!」
「俺は先生!」
黒板にきつねが書いた文字。
――九九は世界を救う。
「生徒!九九を言え!」
「ぽんぽこぽんがさんじゅうろく!」
「素晴らしい!100点だ!」
子どもたちは笑い転げ、先生は「面白いから続けろ」と許した。
二匹は授業のヒーローになった。
夜、神社の境内に戻った二匹は、焚き火を囲んで胸を張る。
「今日もいっぱい化けたなぁ」
「うん、全然バレなかったな!」
……バレまくっていた。
「俺たち、最高のコンビだよな!」
「最高にバカで最高にハッピー!」
ぽんぽこぽんとこんこんこん。
月夜に響く笑い声は、山の向こうまで届いたという。
⸻
完
⸻
ぽんぽこぽんとこんこんこん 御恵璃緒 @mimegumirio
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