第26話 嵐の後
嵐の後で、おれたちは大変だった。水浸しになった泥をかき出し、崩れてしまった藁の屋根を、もう一度葺き直した。
おれたちオノコはだいぶ活躍した。なんてったって力仕事が多かったし、人手が必要だった。
本来関係のないはずのユウノクニの人たちやツヂクニの人たちも手伝ってくれた。
祭りはふた月後にせまっている。ホウライノクニから使節がつくのはそのさらに前。ワダツミも大慌てで準備を進めていた。
「きちんと出迎えの準備をしないと。」
と言って、ワダツミはマレビトジにある一番豪華な屋敷を飾っていった。
そうして、まずマレビトジが綺麗になり、だんだんとおれたちの生活も元に戻り始めた。
朝。穀物庫から、煮炊き場に穀物を運ぶ。子どもたちの仕事なので、オノコもメノコも穀物庫前に集まる。
頑丈な穀物庫は幸いあまり被害を受けておらず、ヨウはほっと胸をなでおろしていた。
穀物庫の中には、みんなの食料がある。祭りの時のご馳走もそうだし、種もみだって穀物庫の中にあるのだ。
「みんなのご飯は無事だよー!」とヨウが微笑んだ。
トヨも言う。
「どうして、嵐の中でも大丈夫だったんだろう?」
ほかの建物は水が中に入ったりしたのに、と、トヨは不思議そうだ。
「トヨがお祈りしたからじゃない?」
とフウが優しく言う。トヨは目を輝かせ、
「そうだ!祈りが届いて、神様が守ってくれたんだよ!」
と言ってあたりを飛び回った。
「そうだね。ヒミコ様が祈ってくれたから助かったんだもんね。」トヨに向かって優しく告げたあと、ヨウは続ける。
「……最近はあんまりお魚とかが入ってこないでしょ。魚も祭りのご馳走に入れたくて。ユウノクニの人たちが木の実や果物持ってきてくれているけど、」
でも、魚を獲ろうと思ったら川魚を獲るしかないのよねえ、とヨウはため息混じりに続ける。ヒサメも同意する。
「そうだね。川魚、夏は獲るの楽しいけど、冬は体が冷えちゃうもんね」
「魚、美味しいけどナァ」
トキが空を見上げる。こいつは魚の干物が大好物なのだ。オノコジで魚が余ると、いつも「もらっていい!!?」と目を輝かせて聞いてくる。
トキの様子を見てトヨが言った。
「わたしとってきてあげるよ、冷たい水でも平気!」
ヨウが慌てて止める。
「ダメよ、トヨ。小さい子は身体を冷やしちゃだめ!」
「でもぉ。」
「だめ。小さい子は、冬に冷えるとすぐに熱が出て死んじゃうんだから。絶対ダメ」
強い口調でヨウが叱る。確かに、冬の病気は怖い。赤ん坊や幼い子どもほど、死にやすい。
「……はい。」
とトヨがシュンとしてつぶやく。
「食べ物がこんなに豊かなんだから、わざわざ魚を食べなくてもいいでしょ、ねぇ、トキ?」
ヒサメがトキのほうをじいっと見る。トキもそれを受けて
「おう、おれも、ご飯大好きだぞ!」
「なら、ご飯大目に持っていきなよ。それに、ユウノクニからの木の実もつけてあげる!」
「やったあ!」
やりとりを見て、トヨも笑顔になる。大きな穀物庫が明るく照らされて、心まで明るくなった気がした。
まじないの力を持つ女と、そこで育つ穀物――この二つがヤマタイという国を支えている。
女の子たちに大人から声がかかる。
「祈りの時間ですよー。運びの仕事を終えて、メノコジで身支度を整えなさい!」
「はーい!」
女の子たちが一斉に去っていく。
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