純情ポルノスピノザ

L.L.

プロローグ スピノザ

 バールーフ・デ・スピノザ。

17世紀オランダに生きた哲学者。

スピノザは、人間を“欲望に従う存在”と見なし、それを理性で制御することで自由に至ると説いた。

 ここでは、それを“欲望理性体”と呼ぶ。


 この物語の主人公――真柴煉ましばれん


 欲望に従いながらも、理性でその行き先を定める。

 理性に縛られながらも、欲望の衝動を手放さない。


 理性にして衝動、衝動にして理性。

 その矛盾を生きる存在――“欲望理性体”


 結果、彼の周りには、奇妙なほどに色の濃い人間たちが集まっていた。時に彼を試すように、時に彼を映すように。友人たちは口を揃えて「あいつは面倒だ」と言う。だが同時に「結局、誰もあいつの思考に追いつけない」とも言う。議論は気づけば煉の掌の上。誰も答えられない問いを、彼は当たり前のように投げかける。

それは理屈ではなく、本能のように考えることそのものが彼の生き方だった。

彼は矛盾を矛盾のままに置かず、必ず答えにまで持ち込む。

それは理性の化け物か、あるいは思索に取り憑かれた狂人か。

周りからすればただの変人。だが真実を知る者は、彼をこう呼ぶ――「思考の天才」と。




 この物語は彼が恋愛をする物語ではない。彼にとって恋愛は、理解不能な制度にすぎない。彼の心を逐一説明する物語でもない。むしろ始めは、彼の心情は深くは語られず、むしろ理解不能なほど突拍子のない言動を見せるだろう。


 彼は主役ではない。ただの契機にすぎない。

真に主役となるのは、彼に映し出される人間たちであり、その思考に巻き込まれていく読者である。

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