第3話
「いや〜、さっすがですねぇ、トシ先輩。こんな美味しいクレープ屋さんがあるなんて、わたし全然知りませんでした〜」
学校の最寄り駅から少し外れた場所。人目を避けるように建っている、小さなカフェのテーブル席。そこで俺たちはクレープを食べていた。
「……そすか」
(こいつ、わざと煽ってんのか、それとも素で言ってんのか。俺のこといつの間に“トシ先輩”呼びしているし……)
彼女はそんな俺の心の声なんて気づきもしない。お皿の上に広げられたクレープ(俺の奢り)を口に放り込み、頬を緩ませて満足そうにうなずいた。
「それでお前は、百合先輩たちを寝取って欲しいなんて言うんだよ……」
「……むぅ、トシ先輩。お前じゃないです! 百合千亜希です!」
わざとらしく頬をふくらませ、ぷくーっと文句を言ってくる。
「じゃ、百合」
「苗字呼びだと姉さん達と区別つかなくなるので却下です」
「……じゃあ、千亜希」
「出会ったばかりの女の子にいきなり名前呼びとか、馴れ馴れしいですよ」
「じゃあ、どう呼べばいいんだよ!!!」
「あっひゃひゃ!」
クッソ……こいつ、ほんと俺のこと煽ってくるな。
片目を細めてニヤニヤ笑う顔に、怒りが込み上げそうになるのを必死で飲み込んだ。
「あぁ、もう、めんどくせぇ……! 千亜希は百合先輩達、寝取って欲しいんだよな」
「うわ、ナチュラルに名前呼びですか。まあ、いいですけど」
千亜希はジト目で睨んだあと、ふぅっと息を吐き、胸を張って――
「私の性的欲求を満たすためです!」
ドヤ顔で言い放った。
「…………」
あぁ〜、まさか本当に、嫌な予感が当たるとは……
「ちょ、……なんで黙るんですか!」
「いやぁ……ちょっと、その……」
俺は顔を引き攣らせながら、千亜希から目を逸らした。
「もーそんな顔で見ないでくださいよ! てか、トシ先輩はそういうの無いんですか!? 大切な人が取られたら、こう……クるって!」
「ねーよ」
「うっそだ! 男の人ってそういうのが好きなはずです」
「また勝手な偏見を……」
「偏見じゃないです〜。ちゃんとそういったサイトで五年連続で寝取り物が一位取ったらしいですし〜」
「それは、まぁ……そうだけど──って、なんでそんなこと知ってるんだよっ!?」
「だって、そういうとこでしか無いですし……」
「うわ……」
「ちゃうんすよ! 私が悪いんじゃないんです! お父さんが悪いんです! 何か面白いものないかな〜って、お父さんの書斎の本棚を探してたら、裏に隠してあった“可愛らしい女の子のパッケージ”の箱を見つけちゃって……
なんだろ〜ってPCにぶち込んだら――見た目に反してハードな寝取り物で、脳が焼かれちゃったんです!」
「お前、本当は何があるか分かってただろ……」
「あーもーうるさいうるさい! トシ先輩は姉さん達を自分の物にできて、私は2人がトシ先輩に寝取られていく様を見れるんですし!」
「いや、自分の姉さん達を物扱いするなよ……」
「むしろ、物扱いされてる姉さん達を想像したら、そそりませんか?」
「……お前、本当にやべぇな」
「そんな事よりトシ先輩。どっちから寝取りますか?ハル姉?ナツ姉?」
「えぇ……急に聞かれてもなあ……」
「ほら、エロゲとかでよくある選択肢ってやつですよ」
「別にエロゲで例えなくてもいいだろ……」
「で、結局、どっちですか?」
千亜希はじっと俺を見てくる。
うーん……百合先輩か、百合か。いきなり言われても困るなあ……
二人とも可愛いのは間違いないし。
百合先輩は成績優秀で、誰にでも優しくて、まさに完璧なお姉さんタイプ。
一方の百合は明るくてノリもいいんだろうけど……正直、ああいう陽キャみたいなのはちょっと苦手なんだよな。気も強そうだし……
――まあ、結局は百合先輩一択だな。
寝取るとかは別として、シンプルにお近づけるチャンスがあるなら……つい考えてしまう。
「……百合先輩かな」
「おっぱいのデカさで選んだな!!!」
「……ええ」
千亜希は身を乗り出して机をバンッと叩き、目をカッと見開いて叫ぶ。その剣幕に、思わず背もたれにのけぞってしまう。
「ホント男の子って、なんでもデカけりゃ良いって思いやがって」
「胸のデカさなんて言ってないだろうが……」
「目が言ってましたあ!!」
「……理不尽かよ。てか、俺ぶっちゃけ巨乳派じゃないから」
「……っ!」
千亜希は胸を隠すように、思わず身体を縮こまらせた。
「あ、お前くらいのも興味ない」
「は? 喧嘩なら買いますよ、トシ先輩」
「……すんません」
「デカいのでも小さいのでもないとなると……尻派なんですか? いや、そもそも異性に興味が――」
「あるわ!!」
「わっ、びっくりした……」
千亜希は肩をすくめて目を丸くする。
「いいか? 俺はおっぱいは大きすぎず、小さすぎない。手に収まるくらいの大きさが好きなんだ」
「…………」
「なんか言えよ」
「……トシ先輩ちょっとキモいなって」
「男はみんなそんなもんだよ」
「いや、開き直んなよ」
千亜希はジト目で俺を見つめ、それからさらっと口を開いた。
「なら、ナツ姉とかどうですか? トシ先輩のピンズドだと思いますよ? 大体こんくらいだったはずです」
「ふーん」
「反応うっす。……なんすか、トシ先輩、ナツ姉きらいなんですか?」
「うーん、嫌いっていうよりなんというか……俺、あいつみたいなタイプ苦手なんだよね」
「……ギャルっぽいところですか?」
「んー、まあ、それ含めてかな」
「へぇ、そうなんですか。――トシ先輩」
「……ん?」
「ナツ姉からにしましょう」
「俺が決めていいんじゃなかったのかよ」
「だって――」
千亜希はアイスコーヒーのストローをくわえたまま、口元をニヤリと吊り上げる。
「なんか、面白くなりそうな気配がするので」
「あのなあ……」
俺は額を押さえてため息をついた。
はあ……、ほんとなんで、こんなくだらないこと付き合わされないといけないんだよ……。
「まあ、あとは女の子慣れしたトシ先輩におまかせします」
にっこり笑って、千亜希はわざとらしくクレープをぱくり。頬をふくらませながら、無邪気に言う。
「わたし、期待して待ってますから。……頑張ってくださいね?トシ先輩」
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