レンタル彼氏のバイトをしてたらうちの学校の美少女三姉妹に目をつけられて大変な目に合うお話。
@ku216
第1話
「それじゃ、トシくん。今日はありがとね、またね」
夜の改札。人波に紛れながら、彼女の手だけがこちらに向かってひらひらと残った。指先が見えなくなるまで、俺はその場に立っていた。
(ふぅ……疲れた)
バイトを始めて一ヶ月──手は覚えたが、心はまだ慣れない。改札の蛍光灯が目の奥に刺さる。
きっかけは、たまたまスマホの広告で見かけたレンタル彼氏の求人募集。時給が凄く良くて、気づいたらこの求人先に連絡をしていた。
父さんが早くに死んで、家は母さんと妹・弟の三人を支えるために必死に働いてくれてる。でも俺が少しでも稼げば、母さんの肩が少しでも軽くなるだろう──そんな単純な理屈が、電話を押させた。
前のバイトも悪くはなかったが、時給の差が一目瞭然だった。
――俺、
(あぁ〜、さっさと帰ろ。遅くなったら母さん、心配するし)
夜風に当たりながら、思わず溜め息が漏れた。
「……明日から学校かぁ。はあ……、ただでさえ疲れてんのに」
――翌朝。
体育館に全校生徒が集められ、蒸し暑さとざわめきが渦を巻いていた。開け放たれた窓から夏の風が吹き込み、むしろ暑さをかき回してくる。
(……暑っつい)
壇上では校長先生のありがたいお話が続いている。けど正直、誰の耳にも入っていない。
(……長い)
「――続きまして、生徒会長からのお言葉です」
(……ん?)
その一言で、体育館の空気がすっと変わった。
壇上に上がったのは、黒髪の少女。
「皆さん、夏休みはいかがお過ごしでしたか? 私は妹たちとちょこちょこお出かけして、のんびり楽しく過ごしました。
……皆さんも元気に過ごせましたか? 体調は大丈夫でしょうか?」
柔らかな声が広がって、さっきまでのだるさが少しだけ薄れる。
「やっぱ
「だよな……それで性格も良くて頭もいい。非の打ち所がねえ」
近くにいた友人、村田と吉村が感心したようにひそひそ言い合っている。
容姿端麗、品行方正、成績優秀。
それでいて誰にでも分け隔てなく接する、人当たりの良さまである。
――
学校一の美少女と呼ばれるのも、まあ当然だ。
「しかも、おっぱいもデカい」
「反則だよな……あれは」
「な? お前もそう思うよな、敏之」
村田が肘でつついてくる。
「ん、あぁ……そうだな」
「反応薄っ。……はっ、まさかお前、反巨乳勢力か!?」
「いや、そういうわけじゃない。デカすぎると、ちょっと萎えないか?」
「んなわけねーだろ!! デカければデカいほど正義だ、ロマンだ!」
「……俺は“小さすぎず大きすぎず”、手に収まるくらいがベストだと思う」
「予想以上にスケベニストだったわ」
(……始業式の体育館で何を語ってんだ、俺たち)
そのとき、視線を感じて顔を上げた。
列の前のほう――金髪の少女と目が合う。
尖った瞳が、針みたいにこっちを刺してきた。
(……ちょ、めちゃくちゃ睨まれてるんですけど!?)
「どうした? 敏之」
「……いや。百合がこっち見てた」
「あー、うちのクラスの方の百合ね。聞かれてたんじゃね?」
「……わかんね」
「陽キャに目ぇつけられたな、俺ら」
「終わった……ボコられる……?」
「落ち着け。あいつらが俺らに興味あるわけないだろ」
――
生徒会長・百合遥香の妹で、うちのクラスの中心にいる陽キャグループの一人。
成績優秀で清楚な姉とは対照的に、派手な見た目とノリの良さで知られるギャル。
俺たちとは縁のない、クラスのカースト上位。
「百合先輩の妹だけあって、顔はいいんだけどなぁ……」
「出来のいい姉がいる反動でグレた、とか?」
「かもな」
村田と吉村が、またひそひそ盛り上がっていた。
「……てかさ、敏之」
「ん?」
吉村が身を寄せてくる。
「今日、学校午前中までだろ? 放課後、どっか遊び行かね?」
「あ〜……」
「お前、夏休み中もことあるごとに断ってきたし。今日こそ行こうぜ」
夏休み中は稼ぎ時で、ほぼバイト漬けだった。
そのせいで、こいつらの誘いは散々断ってきたんだよな。
……ちょっとこいつらに悪いことしたかもしれない。
今日は予定もないし――まあ、たまには付き合ってやるか。
「……OK。行くか」
「ま!? しゃ! じゃゲーセン行って、ボウリングして、次郎キメて、〆に焼肉! 完璧っしょアハハハハ!」
「そこまでは行かねえ!」
俺は即ツッコんだ。
◇◇◇◇
放課後の昇降口。
帰り支度をする生徒たちのざわめきが響いていた。
夏休み気分がまだ抜け切れていないのか、あちこちの声がどこか浮ついている。
「ほら、行くぞ和泉」
「敏之、はやくしろよ〜」
……ここにも、抜け切れてないバカが二匹。
「お前らが早すぎるだけだろ……」
小さくぼやきながら、自分の下駄箱を開ける。
(……ん? なんだこれ)
靴の上に、一枚の封筒が置かれていた。
淡い色に、小さな飾り模様。どう見ても――
(──ラブレターだぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!)
俺は二人にバレてないことを確認して、そっと封筒を掴む。
(いや待て待て待て。落ち着け。こんな古典的なこと、今どきあるわけない。罠だ。ピュアな男子高校生の心を弄ぶための罠だ)
……そう思いながらも、気づけば封を切っていた。
『今日の放課後、屋上であなたに大切なお話があります。
百合より』
(なにぃぃぃぃぃぃぃっ!!!?)
声が出そうになるのを必死にこらえる。
これは――どう見てもラブレターだ。どっから見てもラブレターだ。
(ついに俺にも春が来た。春はとっくに過ぎたが、春が来た! 地味で終わりそうだった高校生活に、恋という眩い青春の光が差し込んだ……!)
……と、浮かれた脳みそが走り出したところで。
俺の視線が、手紙の最後に吸い寄せられる。
そこにあったのは、煩悩まみれの頭を一発で冷やす四文字だった。
『――百合より』
「…………」
(……そういえば俺、今朝の始業式で“百合”に睨まれたよな)
(……放課後)
(……屋上)
「……っ!?」
頭の中で単語を並べた瞬間、背筋に冷たいものが走った。
『あんたさぁ。始業式で私のことバカにしたでしょ?』
『……死になさい』
(……殺害予告だあああああ!!!)
脳内に浮かんだのは、百合がニヤニヤ見てる横で、俺が陽キャどもに袋叩きにされてる光景だった。
やばいやばい、どうしよう。
……いや、屋上に行かなきゃいいだけだ。そうだろ。大丈夫。
――大丈夫じゃねえ。行かなかったら行かなかったで、次の日殺されるだけだ。
なんで俺だけなんだよ……。村田も吉村も言ってただろ……。
俺だけピンポイントで処されるのおかしくない?
あぁ……どうしよう。
……お願いだから、なんかの間違いで「百合」って百合先輩のほうだったりしないか――
「……ッ!?」
(ワンチャン……その可能性もあるのかああああぁ!?)
今度は脳内スクリーンが一転する。
浮かんだのは、爽やかな笑みを浮かべる学校一の美少女――生徒会長・百合遥香先輩。
屋上で――
『ずっと前から好きでした』
そんな告白シーンが、勝手にフル再生されてしまった。
こんな紙一枚で、天国にも地獄にもなり得るとか……怖すぎるだろ。
──屋上に行くか?
……いや、冷静に考えろ。俺は百合先輩と、微塵も接点がない。
ってことは――やっぱり、手紙の「百合」は妹のほうだ。
だとしたら、屋上は罠。行ったら死ぬ。
……でも。
もし万が一、姉の方だったら?
屋上で待ってるのに、俺が無視するってことになる。そんなの、人生で一番もったいない。
クソ。どうする。どうしたらいい――。
(……男には、たとえそこが死地でも進まなきゃいけないときがある)
「敏之、いつまで突っ立ってるんだよ」
「――した」
「……? なんだって?」
「忘れ物した!!!」
「……お、おう」
「取りに戻るから先行っててくれ!!」
そう言い残すと、俺は心臓をバクバクさせながら屋上へ向かった。
◇◇◇◇
階段を登り切ると、屋上へ続く鉄の扉が目の前にあった。
(そもそも開いてるのか……?)
屋上って、何かあるといけないからって普段は鍵かかってるイメージだ。
やっぱあの手紙、誰かのイタズラかもしれない。
そんな考えがよぎったけど、ものは試しだ。
手を伸ばして、ゆっくり取っ手を回す。
ガチャ。
(……開くんかい)
呆気なく回った取っ手のまま、扉は重たい音を立てて開いた。
屋上に出た瞬間、熱気を含んだ風が吹き抜ける。
季節は進んでるはずなのに、空気だけはまだ夏の続きみたいだった。
目に飛び込んできたのは、校舎の向こうまで広がる空と街の景色。
そして、その手前――フェンス際に、ひとりの女の子が立っていた。
腰まで伸びた黒髪。
ぱっちりとした瞳。
俺より一回り低い、小柄な体つき。
――そして、俺の好みから大きく下回る胸のサイズ。
目が合った瞬間、彼女はぷくっと頬を膨らませ、唇を尖らせた。
「やっと来ました。遅すぎです」
……可愛らしい女の子だった。
でも――百合先輩でも、百合でもなかった。
胸の奥に、残念感と安心感が同時に押し寄せる。
……にしても誰だこいつ。見たことねぇ顔だぞ。
一年か? よりによって百合先輩の名前を騙ってラブレターなんて送りつけてくるとか、いい度胸してんな。
「お前、誰だよって顔してますね」
「いや、そのまんまだけど。てか、あのラブレターお前が置いたのか?」
「はい」
「……はあ。あのな、人の名前勝手に使ってイタズラはやめろよ。騙された俺はまだしも、百合先輩に失礼だろ」
「別にイタズラじゃないですよ〜」
「は?」
「私も“百合”なので」
「……え?」
「3年で生徒会長をやってる学校1の美少女と呼ばれる、百合遥香。先輩のクラスメイトでギャルの百合菜月。 その2人は、私の姉です」
「…………」
「そして、私の名前は――
まあ、確かによく見ると、あの二人の面影がこの子にもある。
「まさか三姉妹とは……しかも一年にいるなんて聞いたことなかった」
「私は、目立ちたがり屋の姉たちと違うので」
「そ、そうなのか……」
「話が逸れましたね。本題に入ります」
「……お、おう」
本題。
つまり、あの手紙の続きってことだ。
……いや待て。冷静になれ。
相手は可愛い後輩。屋上。呼び出し。ラブレター風の封筒。
これ、どう考えてもそういうイベントじゃね?
やべぇ。今さら心臓がうるさい。
彼女はまっすぐ俺を見据えて、ひとつ息を吐く。
そして、静かに口を開いた。
「……先輩。私の姉さんたち、寝取ってください」
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