愚かな獣に告ぐ―獣紡夜咄―

於化家

第零章:名のない獣が笑った

 私は、生きてはいない。何者かも思い出せないが、確かに覚えている事がある。

獣と人間はかつて交わっていて、血と心を通わせこの世界を共に生きていく──はずだった。だが、そうはならなかった。それは静かで曖昧あいまいに、だけれど確かに憎しみが生まれた。今も彼らは共存してこの世界に生きる。まるで何事もなかったように。

 全ては獣から始まり、獣の手によって終わる。けれど、その「獣」とは誰のことか。いや、『何のこと』かというべきだろうか。貴方にとっての「獣」は、四つ足で本能のままに生きる獣かもしれない。熊や猪、牙を剥いて人間の生活を脅かす存在。だが、私はこう思うようになった。真に理性に欠き、契りを破り、争いを選んだ存在こそ獣と呼ぶべきではないか、と。

それでは語ろうか。この世界で人間と獣が交わった、始まりを───。

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