「青」

悠里

「青」


 学校が、嫌い。


 つまんない先生。

 つまんないクラスメート。

 ほんの些細なことがおこるまでは、仲の良かったはずの、友達も。



 ――学校に行かなければ、私の心は平穏だ。

 でも、私が学校に行かないと、私以外の人の心は、ざわつく。



 学校に行くつもりで家を出た。


 必ず止まる、信号がある。

 渡り切るのに、五秒くらい。

 その五秒の為に、結構な時間赤信号を見続けないと、青にならない。


 青の時間はすごく短いから。いつも必ず、ここで止まる。

 ここで止まると、余計に、学校に、行きたくなくなる。



 ――――目の前を、結構なスピードで車が走り抜けていく。


 このまま、ほんの少しだけ、前に倒れたら。

 楽になるかもしれない。そう思ったら。


 胸が急に、バクバクして――――世界から音が消えた。

 死ぬときって……きっとこんな感じだ。


 誰も周りにいなくなって、

 たった一人になって。

 静か。


 今まで頑張ってきたこととか

 悩んでたこととか

 全部、何もわからなくなって……



 手を固く握りしめた。



「――――っ……」



 半歩進んだ足。それ以上、動けなかった。


 その時。目の端に映っていた信号がぱっと青になって、メロディが流れ始めた。

 そのメロディをきっかけに、ふっ、と、周りに音が戻った。



 歩く人達の足音。少し急いで、小走りする音。

 友達と話しながら、通り過ぎていく、どこかの学生。

 子供たちの、声。



 ――――固く握りしめていた手を、解いた。

 汗でびっしょり。……気持ちわる……。


 思った瞬間、ふ、と苦笑が零れた。




 ――――私。今。


 絶対。

 こんなところで死にたくないって。


 思った、なあ……。


 青信号は、呆然としてる間に、赤になった。

 俯いたら、瞳から、涙が零れ落ちた。ほんの数秒。生きてる証みたいな、その雫が、地面を湿らせるのを見ていたけれど。



 ぐ、と涙を拭いて、顔を上げた。



 次の青信号に変わった。



 ちゃんと、左右を見てから。

 私は、一歩、大きく踏み出した。




 青は、進め、だ。























 ◇ ◇ ◇ ◇


 776文字。

 読んでくださって、ありがとうございました。

 悠里

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「青」 悠里 @yuuri_novel

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