第6話 目に関する怪異、あるいは因果
出典:【S県立K大学オカルトサークルブログ】
媒体:ブログ
掲載年月日:2018年12月12日
同サークルが行う"真冬のオカルトーク"というイベントで語られた内容を抜粋
コンビニの冷蔵棚の前に立つと、いつも視線を感じる。
ペットボトル飲料が整然と並ぶガラスの向こう側。
棚の奥にあるバックヤードの小窓から、誰かがこちらを見ている。最初は店員だと思っていた。
品出しの合間に、ふとこちらを見ているだけだと。
だが、毎日同じ時間、同じ場所で目が合うのは奇妙だった。
しかも、その目は動かない。まるで棚の奥に貼りついているかのように、じっとこちらを見ている。
ある日、勇気を出して店員に聞いてみた。
「棚の奥にいる人、あれ誰ですか?」
店員は怪訝そうな顔をした。
「え? 誰もいませんよ。今の時間はワンオペなんで、バックヤードにも誰もいないです。」
その瞬間、背筋が凍った。
じゃあ、あの目は誰のものなのか。
翌日も、またその目と目が合った。黒く濁った瞳。
感情のない、ただ置物のように置かれた双方の瞳。棚の奥にある小窓の暗がりから、こちらを見ている。
それからというもの、視線は日を追うごとに強くなっていった。まるで、こちらの内面を覗き込むように。家に帰っても、その目が脳裏に焼きついて離れない。
次第にそれは、夢にまで出てくるようになった。
ある晩、夢の中で棚の奥からその目が這い出てきた。棚の隙間から、黒い指が伸び、冷蔵棚のガラスを叩く。
コンコン、コンコン。
目が覚めると、部屋の窓が同じリズムで鳴っていた。
恐る恐るカーテンを開けると、誰もいない。
ただ、窓ガラスにうっすらと手の跡が残っていた。
それからというもの、怪異は日常に侵入してきた。スマホのカメラを起動すると、背後に棚の奥の小窓が映る。
家の鏡を覗くと、あの目がこちらを見ている。冷蔵庫を開けると、ペットボトルの奥に黒い瞳が浮かぶ。
精神的に限界が近づいていた。
誰にも相談できず、ただ怯える日々を送っていた。
ある夜、とうとう決心してコンビニのバックヤードに忍び込んだ。
棚の奥の小窓を確かめるために。
倉庫は静まり返っていた。
ワンオペの時間帯、店員はレジに立っていて、バックヤードには誰もいない。
棚の裏に回り、小窓を覗く。
そこには何もなかった。ただの壁。
だが、目を離した瞬間、背後から冷たい風が吹いた。
振り返ると、そこに“それ”がいた。
黒い服をまとい、顔のない人影。
足はなくただ、目だけが浮かんでいるようだった。
濁った瞳が、こちらを見ている。
逃げようとしたが、体が動かない。視線が、体を縛っている。怪異はゆっくりと手を伸ばし、こちらの顔に触れた。
その瞬間、意識が途切れた。
目を覚ますと、自分は冷蔵棚の奥にいた。ペットボトルの向こうから、客が飲み物を選んでいる。誰もこちらには気づかない。ただ、時折、目が合う。
そのたびに、客は不安そうな顔をする。そして、やがて誰かがまたこう言うのだ。
「棚の奥にいる人、あれ誰ですか?」
――――
-2018年12月14日-
カストリ雑誌より抜粋
【社会】S県T市のコンビニで不可解な死亡事件 冷蔵棚の奥に“目”を見たという証言も
S県T市内のコンビニエンスストアで13日深夜、男性が店内で死亡しているのが発見された。警察によると、死亡したのは市内在住の会社員・K氏(28)で、発見時には冷蔵棚の裏手にあるバックヤードで倒れていたという。
店員がレジ業務中に異変に気づき、警察に通報。現場には争った形跡はなく、外傷も見られなかったが、K氏の手元には紙片が残されており、そこには震えるような筆跡でこう記されていた。
> 「棚の奥に、目がある。ずっと、見ている」
警察はこの紙片をダイイングメッセージとみなし、事件性の有無を慎重に調査している。
店員「その時間はワンオペ。誰も倉庫にはいないはず」
事件が発生した時間帯は、店舗が深夜営業中で、店員1名によるワンオペ体制だった。店員の証言によれば、「バックヤードには誰もいないはずなのに、棚の奥から視線を感じることが何度かあった」という。
また、近隣住民の一部からは「以前からあの店の飲料棚の前に立つと、誰かに見られているような気がする」という証言も出ており、地域では不気味な噂が広がりつつある。
防犯カメラには“何か”が映っていた?
警察は店内の防犯カメラ映像を解析中だが、関係者によると「棚の奥に一瞬、黒い影のようなものが映っていた」との情報もある。映像の詳細は公表されておらず、真偽は不明。
現在、警察はK氏の死因を調査中で、事件性の有無を含めて慎重に捜査を進めている。店舗は一時休業となっており、地元住民の間では「棚の奥の目」という言葉が都市伝説のように囁かれ始めている。
[構成要素]:夢、目、現実への侵食
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