第27話 ケーキ屋

 いつも通りスマホのアラームで目覚める。当たり前だけど、1人しかいない部屋。いつもなら何とも思わないんだけど、今日だけは少し寂しい。

 スマホを開くと、カレンダーから通知が来ている。『今日は望月健人さんのお誕生日です』と。


 そう、今日7月1日は俺の誕生日。下宿を始めてからは特に誰に祝ってもらうでもなく、ただ1人でささやかにケーキを食べるだけの日になっている。


 そうか、今日で俺は22歳か……。もう来年は社会人だもんなあ。いや、ちゃんと面接に受かればの話なんだけど。言ってて悲しくなってきたぞ。

 誕生日だろうが関係無く今日も面接が入っている。とりあえず面接を済ませて、夜は小さいケーキでも買って帰ろう。


 そう決めた俺は身支度をして気持ちを切り替え、面接へと向かった。



「どうだったんだろなあ……。なんか微妙だった気が……」


 またしてもあまり良くない反応をもらって亀風に帰って来た俺は、結果を想像して憂鬱になっていた。

 ただ、今日は気持ちを上げられる日でもある。誕生日だからな。好きなケーキ買って帰って、1人で楽しく食べてやる。うん、なんか言ってて悲しくなってきた。彼女でもいればなあ。


 うだうだと考えながら歩いていると、ケーキ屋に辿り着く。ま、とりあえずケーキ選んでテンション上げよう。俺にはそれしかできねえからな。

 ケーキ屋に入ると、元気な女の声が俺を出迎えた。


「いらっしゃいませ〜! 町のケーキ屋さん『スポンジボビー』へようこそ!」


「めちゃくちゃグレーな名前してんな! もう一考の余地あっただろ! ……って心音!?」


「やっほやっほ健人先輩! 1人でケーキ屋なんてどうしたの? 強盗?」


「そんなわけねえだろ! 俺だってケーキぐらい食うわ!」


「そーなんだ! でも普段あんまり甘いもの食べないよね?」


「ああ、まあな。今日はちょっとな、誕生日だから」


 俺がそう言うと、心音は大きく目を見開いた。


「え、今日誕生日なの!? 健人先輩に誕生日とか無いと思ってた!」


「なんでだよ! 誰しも誕生日はあるわ!」


「でもあれでしょ? 健人先輩って本体が分裂してできた分体みたいなもんでしょ?」


「俺アメーバじゃねえから! そんな気持ち悪い繁殖方法で生まれてねえよ!」


「望月健人ACT2とかそんな名前じゃなかったっけ?」


「別にオリジナルから進化してできた分体じゃねえよ! 名前に余計なもん付けんな!」


 ひでえなこいつ。誰が分裂して生まれたんだよ。俺だって普通に母体から生み出されたわ。


「へー、じゃあ健人先輩もちゃんとお母さんのお腹にいたんだね!」


「当たり前だろ! むしろそれ以外でどうやって生まれてくるんだよ!」


「でもでも、だったらお母さん大変じゃない? だって健人先輩188センチあるじゃん?」


「俺別に生まれた時からこの体格だったわけじゃねえよ!? ちゃんと成長してこの体格だからな!?」


「ああそうなの? なーんだ、お母さんが3メートルあるわけじゃないんだ。ざーんねん」


「あんまりバカにすんなよお前!?」


 とんでもねえこと言ってんなこの子は!?

 人の親はバカにするもんじゃねえぞ? まあ実際うちの母ちゃん178センチあるから、普通に考えたらめちゃくちゃデカいんだけどな。


「それで、バースデーボーイはどのケーキが欲しいの?」


「そうだな……。毎年適当にショートケーキだから、今年はなんか違うもんにしてえな」


「おっけー! ならこのもやし炒め定食とかどう?」


「ケーキで頼むわ! 何が悲しくて誕生日にもやし炒め食わなきゃいけねえんだよ!」


「じゃあこっちの肉ケーキとかどう?」


「どんなケーキなんだよそれ! 普通のケーキねえの!?」


「あれ健人先輩肉ケーキ知らない? 生肉をこうやってケーキみたいに盛り付けるもので、記念日とかサプライズに人気なんだよ!」


「だとしてもだよ! やるとしたら焼肉屋とかだろそれ! なんでケーキ屋が肉ケーキなんか売ってんだよ!」


「もうわがままだなあ。じゃあちゃんとしたケーキ紹介するね!」


「最初からそうしてもらえる!?」


 なんでこの会話に1回もケーキ出て来ねえんだよ。ケーキ屋だろここ。普通に甘いケーキ出してくれよ。


「じゃあうちのお店1番のオススメ! さくらんぼのケーキだよ!」


「おお、まともだななんか。そういうの出してくれよ」


「さくらんぼの木をふんだんに使ったケーキでね?」


「実の方使えよ! なんで木なんだよ!」


「ああ実の方が良かった? じゃ、そっちにしとくね」


「そっちしかねえだろ! 木の選択肢用意しとくなよ!」


 心音はさくらんぼのケーキを2切れ取って箱に入れていく。おいちょっと待て、1切れでいいんだけど。俺2切れも食べなくていいよ。


「おい心音、なんで2切れ入れてんだよ」


「まーまー気にしないで! 支払いも私がしておくから!」


「え? なんでだよ」


「だから気にしないでって! はい、ケーキだよ!」


「お、おう……。ありがとな」


「じゃ、ちょっと外で待っててね!」


 外で待ってろ……? いや別にすぐ帰りてえんだけど……。


 心音に言われるがままに外で待っていると、私服に着替えた心音が駆け寄って来た。


「お待たせ健人先輩! じゃ、行こっか!」


「は……? どういうことだ?」


「私が寂しい健人先輩を一緒にお祝いしてあげる! さ、健人先輩の家行こ?」


「いやそれはありがてえけども……。お前バイトはどうすんだよ」


「ああ、生クリームを直飲みしてるところを動画に撮ってクビになってきた!」


「はあ!? お前何してんだよ!?」


「まーまーいいじゃん! さ、行こ?」


 何故か嬉しそうな心音を引き連れて、家までの道を歩く。まあ大学に入ってから初めて誰かに祝ってもらえるなら、ありがてえことだな。


「そういや心音、別に体調崩したとか言えばわざわざクビにならなくて済んだんじゃねえか?」


「……ハッ!」


 いや気づいてなかったのかよ。

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