第14話 メイドさんはネコ耳少女

 この部屋の中で、生活魔法や風魔法・土魔法・水魔法をどうやって練習すれば上達するかなと考えていると、コンコンッとドアがノックされた。


「はーい! どうぞぉ〜」と返事はしたけれど、こちら側にはドアノブが無い。


 外から施錠されている状態なので、誰かが入りたければいつでも勝手に鍵を開けて入ってこれるんだよなぁ。


 そうか! 勝手にドアを開けられないように土魔法で隙間をふさいでしまえばいいのか! 


 よーし、それはあとで練習してみよう。


 ガチャガチャと鍵を開けて、宰相閣下から命じられて従者になったエレンとゲーリーが入ってきたが、その後ろから小柄な少女もワゴンを押しながら入ってきた。


 その少女は擦り切れたクリーム色のワンピースにエプロンをつけたネコ耳少女だが、大きな首輪をつけている。


 ネコ耳少女は、作り付けの机の上に粗雑な紙の束や羊皮紙の巻物にスープの入った深皿や黒いパンの皿に空の木のコップ、リンゴやオレンジに似た果物が入ったカゴを置いて壁際に下がった。


「お前が要求していたこの国の歴史や地理に、国王陛下や王族と貴族家のことがわかる書物と食べ物だ。水は魔道具から出して好きなだけ飲め」とゲーリーがオレをにらみながら言った。


 なるほどね、水の出る魔道具から出してもいいが、生活魔法のウォーターの練習でコップにどれだけ水が入れられるのかを試してみるのもいいな。


「ありがとな、じっくり読ませてもらうよ。今日はもう部屋の外に出る用事はなさそうなのか?」


「今のところは無いな。明朝、騎士団長が呼び出すだろうが、それまではこの部屋にいてもらう」


「そうか、それはわかったが、その少女はなんだ? 世話係りなのか?」


 ゲーリーはニヤニヤ笑いながら言った。


「そうだ。お前の食事はコイツが運んでくる。シーツや他に洗濯物があれば、それもコイツがやる」


「コイツって、その少女には名前は無いのか?」


「名前は無い、奴隷だからな。それに声も出せないからな」


「んっ? 奴隷だから名前が無くて声も出せないのか?」


「奴隷には名前は無い。主人が付けるものだからな。王城で使役されている奴隷には名前は付けないのだ。声が出せないのはコイツの生まれつきだ」


「ふ〜ん、奴隷に名前が無くても不自由はしないのか?」


「しないな。他の奴隷も名前は無いからな。コイツとかお前とか適当に呼んでいる。そこにある書物の中に奴隷について説明した物があるはずだ」


「そうか……、ちょっとその少女で練習したいことがあるんだがいいかな?」


「なんだ? 言っておくが夜伽よとぎはさせないぞ」


夜伽よとぎ?」


 ゲーリーはエレンをチラッと見て小声で言った。


「夜の……相手だ……」


 んんん? んん……、ああ……、それね。


「いや、そういうのじゃない。生活魔法の練習だ。今すぐここでやれることだ。誰に見られても恥ずかしくは無いぞ」


「ハハハハハ、まぁそうムキになるな。奴隷にはとそうではない奴隷がいるのだ。王城内にいる奴隷は契約で守られているからな」


「まぁ、それは持ってきてくれた書物で調べてみるよ」


 ゲーリーはネコ耳少女を手まねきして言った。


「この者の指示に従え」


 ネコ耳少女はおずおずとオレに近づいてきた。


「オレが命じたことをしてくれるのか?」


「それは私が『従え』と言ったからな」


「ふむ、ではオレには命令する権利が無いのだな」


「そうだな」


「お願いならいいのか?」


「試しに、お願いしてみろ」


 オレはネコ耳少女に言った。


「両手を前に出して見せてくれないか」


 ネコ耳少女は両手を見せた。


 ゲーリーの『オレに従え』という命令ありきだからやってくれるのか、うーん、奴隷ってあつかいが難しそうだな。


「今から生活魔法の練習をする。両手に触るがそのままでいてくれよ」


 ネコ耳少女は黙って両手を出しているから、そっとオレの両手で包んで「ヒール」と言ってみた。


 机の上に書物や食べ物を並べている時にネコ耳少女の手に小さな切り傷や擦り傷があるのが気になっていたので、ヒールで他人のキズがどれだけ治せるのか興味があったのでやってみた。しばらくそのままでいると、なんとなく『もういいよ』という感覚がした。


 両手を離してネコ耳少女の手を見ると、小さな切り傷や擦り傷は消えていた。


 ほう、他人の身体もうまく治せるのかと感心して見ていると、エレンが言った。


「ふ〜ん。異世界から来たばかりなのにヒールがうまく使えるのね。それも『エアロビマスター』のスキルがあるからなの?」


「うーん、どうだろうな? それはこれから調べていかないと何とも言えないな」


「でも、さっきは宰相閣下の護衛騎士たちを気絶させたじゃない」


「あれは、確かに『エアロビマスター』のスキルを使ったからできたことだ」


「アタシたちをヘロヘロにしたのも?」とエレンはオレをにらみつけて言った。


 オレは黙ってニヤリと笑った。


 ふんっ! と鼻を鳴らしてエレンは出ていった。


 ゲーリーも「もう用は済んだな?」と言いながら、ネコ耳少女を連れて出ていったが、去り際にネコ耳少女は軽く頭を下げてドアを閉めた。


 ガッチャーン! と音を立ててドアが施錠された。


 すかさず、ドアに近づいて土魔法でドア全体をカバーするように土壁を作ってみた。


 エアロビマスターのバトルモードで吸収してある魔力でガチガチに固めた土壁を叩いて強度を確かめてから、机の上に置いてあるスープとパンに果物を鑑定してみた。


 毒は入っていないか……。


 ちょいと冷えたスープに生活魔法のファイヤを近づけて温めて、黒いパンも文房具入れに入っていたカッターで薄く切ってファイヤであぶって熱々にしてから食べてみた。


 まぁ薄味だな。


 もう少し塩気か、コショウか七味でも足したいところだが、贅沢を言ってもキリが無いからね。


 空の木のコップに指先から出したウォーターを溜めて飲むと……、うーん、これも味気ない。


 いわゆる蒸留水って感じかな。


 マジックバックからポカ◎を出して少し混ぜて飲むとまぁまぁイケるかな。


 薄味に慣れるのは健康には良さそうだから、ヨシとしよう。


 スープと黒いパンを食べ終えて、リンゴに似た果物:リゴーの実をかじりながら、この国の資料を読むことにした。

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エアロビマスター 〜女神のムチャブリに悪戦苦闘しながら、オレはエアロビクスでしぶとく異世界を生き抜いてやる〜 市ノ瀬茂樹 @ichinose_shigeki

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