第12話 宰相の思惑:②
ボルデン王国宰相バンフリー・ボガドは目の前にいる召喚者と少し話をしてみようと思った。
護衛騎士たちに命じて気絶している騎士たちや従者を部屋から出して、召喚者にソファを勧めた。
「立っていても話しづらい、座ろうか」
召喚者……、コバヤシ・カズオは素直にソファに座ったが、油断なくまわりを見渡している。
「さて、ソナタはどう呼べばよいのかな? コバヤシ殿か? カズオ殿か?」
「宰相閣下のお名前はバンフリー・ボガド様とお聞きしましたが、家の名前がボガド様ということでしようか?」
「そうか、ソナタはこの世界の常識を知らないのであったな。いかにもボガドが我が家名である」
「では、ボガド宰相閣下とお呼びすればよいのですか?」
「うむ、そうだな。それでよいぞ」
「では、ボガド宰相閣下。私はコバヤシ・カズオともうします。コバヤシが家名でございますので、この世界ではカズオ・コバヤシと名乗ることになります。どうぞお気軽に『カズオ』とお呼びください」
「さようか、ソナタ……カズオがそれでよいなら、そう呼ぼう」
「それでカズオはこの世界に召喚される前は何をしていたのだ?」
「そうですね……、いわゆる事務系の仕事。この世界でも書類を取り扱う文官の仕事があると思いますが、そのようなことをしていました」
「つまりは、敵と戦う仕事では無かったのだな」
「はい、そのような仕事は軍隊という集団がありますが、それではありません」
カズオは召喚される前の世界について、いろいろ興味深い話をしてくれた。
馬を使わずに走る馬車や遠くの者と話したり風景を伝える魔道具……、『すまほ』や『ぱそこん』というものについてや、社会制度など。
カズオの住んでいた国には国王はおらず『国民の象徴』としての存在がいて、実際に国の運営を
税金や社会福祉など興味深い話は尽きぬが、カズオの住んでいた世界で使われていたさまざまな魔道具については、この国でも使われてるものもあれば、初めて聞くものも多い。
エアロビマスターというスキルがこの国に有益なものならいいが、そうでなくてもカズオの知識は国外追放するには惜しい。
ワシの手の者をそばに置いて監視させるか……。
オンナをそばに置けばカズオをつなぎとめる首輪になるか……。
ボガドはそばに控えるエレンとゲーリーを手招きした。
「先ほどカズオが気絶させた従者の代わりにこの者たちをそばに置いてくれ。この王城内やこの国についての知識を得る手助けに使えばよいぞ」
「先ほどの従者はよいのですか?」
「あれは国王陛下の手の者だ。代わりの者がつくだろうが、ワシの手の者もつけておけば安心であろう?」
「それは、国王陛下とボガド宰相閣下では、考えが異なる場合があるということですか?」
「そうハッキリとはワシは言えんがな」
「わかりました。お心のままに。ただし、この二人には私に敵対することは無いようにしていただきたいのですが」
「それは、カズオ様が私たちよりも優位に立つ者だということでしょうか?」とエレンが言った。
ボガド宰相は面白そうな顔をして見ている。
エレンとゲーリーはカズオに近づいてエアロビマスターのバトルモード領域に入った。
もちろん、カズオ以外にはそれはわからない。
カズオにはエレンとゲーリーのスキルが読み取れた。
二人とも身体強化・隠密・暗殺術・短剣術・瞬歩・毒殺術……、かなりヤバいスキルを持っているな。
「ボガド宰相閣下、この二人は私の指示命令には従うのでしょうか?」
「従うぞ。なんなら夜の相手をさせてもよいぞ」
おいおい、それはハニートラップというやつじゃないか。
「ご命令とあらば、夜のお相手はいたしますよ」
エレンとゲーリーは笑っている。
いや、ゲーリーさんはコチラから遠慮させてもらいますよ。
エレンは……、かなり筋肉質だな。マラソンランナーみたいに引き締まった身体だ。
お胸様とお尻様は……、オレの好みじゃないな。
「ボガド宰相閣下、この二人が私の従者にふさわしいか試してみてもよろしいですか?」
「んん? この場で試せるのか?」
「はい、できます」
「やってみるがよい」
「はい、ではお二人とも靴を脱いでください」
エレンとゲーリーは意外な顔をしたが、靴を脱いでなにやら魔法を使った。
「今なにをしたんだ?」
エレンは言いにくそうな顔をしたが、ゲーリーが言った。
「クリーンだ。簡単に言うと足や靴の匂いを消したのだ」
「そうか、じゃあお二人とも身体の力を抜いて、オレの動きを真似てください」
オレは大きく背伸びをして、腰に手を置いて前後左右に曲げ伸ばして、脚を斜めに大きく開いてアキレス腱から腿の裏までしっかりストレッチをした。
「さて、やってもらうのは飛び上がることです。見ていてください」
大きく両手を上に伸ばしてジャンプした。
エアロビマスターのスキルで神級の体力になったオレは、高さ10㍍程度はある天井に両手をついた。
膝を軽く曲げて着地して言った。
「コレを10回やってもらいます。もちろん身体強化を使ってかまいません。さあ、やってください」
エレンとゲーリーは顔を見合わせていたが、ボガド宰相が手を振って『やれ!』という顔をすると、両手を上げて天井に向かってジャンプした。
エアロビマスターのバトルモード領域に入っている二人からは体力と魔力を吸収できる。
最初の1回目は素の体力と魔力でやらせた。
2回目からは20%ずつ魔力を吸収していった。
5回目で魔力切れで苦しそうな顔になったが、身体強化ができなくなっても素の体力で6回目はジャンプできた。
そこから体力を30%ずつ吸収していくと、9回目でエレンが倒れ込んだ。
ゲーリーは歯を食いしばって10回目のジャンプはしたが、天井には届かず着地して倒れ込んだ。
『バトルモード勝者特典があります。累積ポイントが120ポイントになりました。レベルアップしますか?』というアナウンスが聞こえた。
オレは立ち上がって二人に拍手した。
キミたちのおかげでポイントが増えたよ、ありがとう。
「お二人の実力はよく分かりました。素晴らしいものですが、私のそばにいて鍛えていけば、さらに体力と魔力が増えていきますよ」
「カズオ、この二人を従者にするのか? お前の課題は達成できなかったのだぞ」
「ボガド宰相閣下、たしかに今はできませんでしたが、このお二人には可能性がありますね。今後が楽しみです」
ボガド宰相はため息をついた。
「カズオがそう言うなら、よいであろう。エレン、ゲーリー、カズオによく仕えるのだぞ」
エレンとゲーリーはゼエゼエと苦しい息を飲み込んで「「かしこまりました」」と言った。
「ボガド宰相閣下、他にご用事が無ければ部屋に戻らせていただいてよろしいでしょうか?」
「うむ、よいぞ。明日からはカズオが
「かしこまりました」
なんとか靴をはいたエレンとゲーリーはヨロヨロと立ち上がり先導して宰相の執務室を出た。
長い階段や廊下をフラフラになりながら部屋まで案内してくれた二人に言った。
「お疲れ様でした、もう今日は用事はありませんから、ゆっくり休んでください。国王陛下の従者に果物とこの国や周辺の国々、この国の身分や常識を学べる本や資料を見せてくださいと頼んでおいたのですが、それがどうなっているのか確認してください」
エレンとゲーリーは少し恨めしそうな顔をしてオレを見たが、黙って
部屋に入ると、外からガチャァーンと大きな音を立てて鍵がかけられた。
あー、コレはかなりお怒りになってるな。
でも、エレンさんにゲーリーさんよ、お楽しみはこれからだぜ。
オレはニヤリと笑ってベッドに寝転んだ。
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