第11話 宰相の思惑:①
ボルデン王国宰相のバンフリー・ボガドは全身に冷や汗をかいていた。
エアロビマスターという誰も知らないスキルを持った召喚者を追放しようとしたが、その者が主張した条件での対決を国王が認め、騎士たちと対決させた。
結果は騎士たち全員が倒れ込んで起き上がれず、その者だけは最後までその場で身体を動かしていた。
国王陛下や王妃殿下に王子たちや王女たち、立ち並ぶ貴族たちの前でその者は
それを無いことにはできない。
その者が勝利した場合に提示した『この世界に生まれ育った者を指導して、あらためて対決する』という条件をかなえないわけにはいかなくなった。
指導させる者は騎士団長長のクルニーに選ばせているが、その前に直接その者と話をしてみようと呼び出したが……、直接なにか攻撃をしたわけでもないのに、その者を連れてきた従者やワシのそばで警護する騎士たちが意識を
何だこれは? 何を見せられている?
エアロビマスターとは、人に触れずとも意識を失わせるスキルなのか……。
これは剣聖や盾聖よりもはるかに有効な攻撃スキルではないのか?
ボガドは目の前で何事もなかったかのように立っている者を畏怖の目で見た。
コヤツの扱いを誤れば、どのような被害が出るかわからぬ。
まずは、穏やかに話をして、この者の考えを聞く必要があるな。
ボガドはその者に言った。
「お前のスキルはまわりにいる者を直接攻撃せずとも無力化できるのだな」
「はい、できます」
「どうして、従者や騎士たちを無力化したのだ?」
「どうして……? スキルを使ってですが」
「いや、無力化した理由だ」
「ああ、それはですね。この従者はこの部屋に入ったらひざまずけ! 頭を下げろ! と命令しましたので……、ちょっとイラッとしましたので」
「そこに倒れている騎士たちは、私に向かって剣を抜こうとしましたので、自己防衛のために無力化しました」
「ふむ、私に向かってひざまずくのはイヤか」
「失礼ですが、よく知らない方ですのでひざまずく理由がわかりませんし、自分から望んでこの世界に来たわけではありませんのに、どうしてへりくだった態度を取らなければならないのか理解できません」
「つまり、お前はワシよりも上位の者であると言いたいのか?」
「この世界には無いスキルを持つ者としての能力は先ほどお見せしましたし、この場でも同様にお見せしました。上位であるとは言いませんが、敬意は表していただいてもよろしいのではないでしょうか?」
「ふむ、何も理由が無くやったことではないのだな」
「さようです」
「そうか……、ワシはバンフリー・ボガドという。国王陛下から公爵位をいただき、このボルデン王国の宰相を
「公爵位というと、国王陛下の次に偉い貴族様……、ということですか?」
「う〜む、それは初めて訊かれたな。それは間違いでは無いが、実際には王族が臣下になって公爵位をいただく場合があるから、同じ公爵といえども順位はあるな」
「では、宰相というのは国王の次に偉い役職なのですか?」
「うむ、それは間違いないな。このボルデン王国ではワシの上の役職は無い」
「なるほど、わかりました。実は滞在する部屋に案内された時に、ここに倒れている従者には『この国のことやこの世界についてわかる本やこの国の貴族や役職についてわかる本を見せてくれ』と言ったのですが、その本を見る前にここに連れてこられましたので、ボガド様……、宰相閣下については知りませんでした。大変失礼いたしました」
ボガドは、その者が軽く頭を下げるのを見ていた。
たしかに、いきなり別な世界から召喚されてきて何者かわからぬ者にひざまずいて頭を下げろと言われても納得はできんか……。
ボガドは公爵家に生まれ宰相職を継ぐべく幼少より教育されてきた。
家の仕事が宰相職だからといって、何の努力もせずに宰相の椅子に座ったわけではない。
その重職を継ぐことに思うところはあった。
できれば他の者に代わって欲しいと思ったこともあった。
だが、公爵家の嫡男に生まれ宰相職を継ぐべく教育されてきたのも、女神様のお決めになった
だから、この者が言うことに公正な判断を下す心の余裕があった。
この者はなかなか肝が太い。
久しぶりに話をしてみたいと思う相手があらわれたとボガドは内心ニヤリと笑った。
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