第2話 スキルチェック

 そこはどうやら王様が謁見する場所のようだ。


 なんか古い映画でこんな場所で会議したり、勲章や爵位を授けている場面を見たような記憶がある。


 なんで公園で缶チューハイを飲んでる最中に女神に命令されて、こんなところに来なきゃいけないんだ? 


 そーっとあたりを見渡すと、ピカピカの全身鎧を着た兵士? いや騎士が壁際にズラリと並んでいるし、やけに装飾が多い重たそうな衣装を着たも並んで立っている。


 ホールの奥は高い段になっていて、金ピカの椅子にドッシリと座っているのは……、王冠をかぶった王様か! 


 たしかイギリスの王様が戴冠式でかぶっていたのもあんな王冠だったなぁ。


 その横にいるのが王妃様で、子どもが何人か……、王子様と王女様かな。


「異世界人たちよ、我らが願いをかなえて欲しい」


 おや、なんか始まるのかな? 


「召喚にこたえし異世界の勇者たちよ! 我らが世界の平安のために力を貸してくれ!」


 んー? 召喚にこたえしって、オレは知らんぞ。


 誰がこたえたんだ? 


 もしかして、オレは巻きえをくらったのか? 


 誰かが「うわぁ~、異世界召喚だぁ〜」とか「スキル♪ スキル♪」とか言って、はしゃいでる。


 あの子たちは公園でアオハルしてた中学生たちか。


 無邪気にはしゃげるって若者の特権だな。


「さて、勇者たちよ。さっそくだが、女神様から授かったスキルを調べさせてくれ」


 んー、白髪をオールバックにしたおっさんが水晶玉を運んできたな。


「やったぁ! スキル♪ スキル♪」


「ワタシは魔法が使いたぁ〜い」


「俺は神剣が使いたいぞ!」


 はぁ~、夢があっていいなぁ。オレなんて『エアロビマスター』だよ。


 異世界でエアロビクスなんかやって、どうするんだよ。


 なんか使えるスキルだったら良かったのになぁ。


 中学生たちは次々に水晶玉に触って自分のスキルを確認して喜んでいる。


「アカシ・サトル殿、剣聖・光魔法」


「イイ・ユウジ殿、盾聖・槍王」


「ソガ・サヤカ殿、神聖魔法」


「ハセガワ・リサ殿、神級魔道士」


「ナルサワ・マイカ殿、神級錬金術師」


 中学生たちのスキルが発表されるたびに、たちや騎士たちが歓声を上げ拍手している。


 まぁ凄いスキルばかりですこと、よろしゅうございましたねぇ。


「あと一人おるな。さぁこちらへ」


 みんながオレを見た。


 やらなきゃダメ? ダメなんだろうなぁ。


 はぁ〜ぁ、ヤダヤダ。


 騎士たちが近づいてきて、力ずくで水晶玉に触らせるつもりなのを感じたので、イヤイヤながら水晶玉に触った。


「コバヤシ・カズオ殿、エアロビ……? エアロビマスター……?」


「エアロビマスター……、誰かこのスキルを知る者はおるか!」


 オールバックのおっさんは声を張り上げたが、誰も答えない。


 中学生たちは大爆笑だ。


「えー! エアロビマスターって、エアロビの先生ってことぉ?」


「おっさんがエアロビクスやったって、誰もついてこないよ」


「エアロビの勇者ってナニィ〜?」


「あー、アカシ殿たちは、エアロビとは何かおわかりなのだな」


 オールバックのおっさんが剣聖に訊いた。


「そうですね。音楽に合わせて踊ることですかね」


「そうそう、すっごくピッチリしたタイツとかいてさ、踊るのよね」


「モッコリが揺れるんだよね」


「ちょっとぉ、オジサンのモッコリなんて見たくないわよ」


「あっ! 女の子のブルンブルンが見れるから、オジサンがやってるんだ」


「それだ! ユウジ。ブルンブルンだ! そうでしょ! オジサン」


「ふうむ、音楽とやらに合わせて踊る……、戦いには使えぬな」


 オールバックのおっさんは王様に言った。


「国王陛下、このエアロビマスターとやらは、勇者ではございませぬ。ただちに追放……」


 そこでオレは大きな声で叫んだ。


「私を追放すると、女神様の神罰が下りますよ!」


 ザワザワしていたホールは、しーんと静かになった。


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