撮りましょうか?
sora_kumo
撮りましょうか?
万博が開催されるので行きたいと思ったが、チケットの取り方もややこしく、会場内の会計も現金が使えないと知り、高齢の自分達には無理、と諦めていたら、孫が一緒に行ってくれることになった。
「おばあちゃん達はぐれちゃダメよ。私と一緒にいないとパビリオン入れないからね」
「はいはい。よろしくお願いします」
二十歳の孫娘は、会場マップを見ながら、年寄り夫婦の歩く速度に合わせてくれる。
(昔行った万博は凄い並んだけど……)
今回の万博も行列はあるものの、昔ほどには感じなかった。
孫が予約していたパビリオンを回り、あとは比較的スムーズに入れる所を観て回った。
「おばあちゃんは前やってた大阪の万博来たことあるの?」
「あるよ〜。今のあなたくらいの頃だったわ」
「へぇ~、どんな感じだった?」
「そうね~、例えば―――」
盛り上がるお喋りを聞きつつ、夫はたこ焼きを黙々と平らげている。
あっちへ行き、こっちへ行き、と普段の倍以上は歩き、足もそろそろ限界に近づいてきた。
「シャトルバスの時間もあるから、そろそろ帰ろうか」
「そうね。今日は、楽しかったわ。ありがとうね」
「おじいちゃんも楽しかった?」
孫と後ろにいる夫を見ると、夫は何かをじっと見ていた。
その視線の先には万博のキャラクターの像があり、みんなが写真を撮っている。
「私達も最後に写真撮ろう!」
孫が夫の腕を取り、ぐいぐい引っ張って行く。
撮影のために順番待ちしていると、私達の前には、老夫婦とその子ども達一家という大所帯がいた。
「パパが撮るから、みんな早く並んで」
若い父親が、スマホを片手に指示を出していると、夫がスッと前に出る。
「良ければ、撮りましょうか?」
「助かります! では、コレで」
「お預かりします」
夫はそう言うと、受け取ったスマホを孫に渡す。
「私が撮るんかーいっ」
孫は笑いながらスマホを操作する。
「はい! 撮りますよー!」
念の為、数枚撮影をして、父親にスマホの画面を確認してもらう。
「ありがとうございました! 良ければ、今度はこちらが撮りますよ」
「じゃ、お願いします!」
今度は私達三人が並んで撮影してもらう。
「ありがとうございました!」
「いえいえ、こちらこそ」
孫娘達が会話している所から少し離れていると、夫があちらの老夫婦を見ているのに気付いた。
不思議に思って私も改めて見ると、あちらのご主人がハッとした顔を私に向けた。
私もそこで気付く。
1970年に開催された万博へ、当時二十歳の私は、将来を一緒にと考えていた男性と来たことがある。
彼は同じ会社に勤めていた先輩だった。
いろいろあって別れてしまい、彼も会社を辞めていなくなったので、その後については全く知らない。
今の夫は取り引き先の営業マンだったので、彼とも面識はあったとは思うけど……。
(こんな何十年も経って、よく気付いたわね)
感心した顔で横にいる夫を見ると、突然私と手を繋ぎ、ぐいっと上に挙げた。
「ちょっと!? あなた!?」
「なになに〜、急に〜。 おばあちゃん達、ラブラブじゃん」
孫がこちらに来て、ニヤニヤしながら冷やかす。
恥ずかしくて、手を離そうとするけれど、夫は離してくれない。
そっと、あちらのご主人の様子を伺うと、私達とは反対方向へ家族皆さんと進んでいた。
一番後ろを歩いている彼は、顔だけこちらに向け、口パクで何か言っている。
(……おしあわせに?)
「大きなお世話だ」
夫が苦々しく呟く。
(もう何十年とこの人と過ごしているけれど)
自然と笑みがこぼれる。
「おじいちゃん! 私も!」
「あっ! おい! やめないか!」
私がいるのと反対側に孫が腕を回すと、夫は真っ赤になって焦っている。
「あら~? おじいちゃんはおばあちゃんのものよ〜?」
「え〜? 孫の方が良いよね〜?」
「――――っ!?」
夫を挟んで、ケラケラ女二人で笑いながら帰りのゲートに向かった。
撮りましょうか? sora_kumo @sora_kumo
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