葉桜と君の手

夕月ねむ

***

 学生時代から仲の良い女友達と二人で、お花見に来た。これが何回目だろうか。長く付き合える友達は貴重だなぁと思う。


「もう葉桜じゃない」

「その分、人が少なくていいでしょ」

「でも満開の時に見たかった!」

「しょうがないよ。今日しか予定が合わなかったんだから」


 きゃあきゃあとそんなことを言い合いながら、桜の木の下にレジャーシートを敷いていく。お互いの手作りじゃないけど、お弁当を広げた。


 淡い色の花弁が少しの風でひらひら舞って、お弁当の唐揚げの上にも落ちて来た。


 盃でもあれば風流を気取れたかもしれないけれど、生憎この公園、お花見はできても飲酒は禁止だ。見回る職員の姿もある。酔っ払いに絡まれることがないのは良い。


 天気が良くて、ぽかぽかと暖かくて、風も穏やか。だからと言ってウトウトし始めたのは自分でもどうかと思ったんだけど、どうしても眠気に勝てなかった。


 完全に寝てはいないけど、眠くて眠くて動けない、そんな時間が長く続いた。


 友人が「寝ちゃったの?」なんて聞いてきたけど、うずくまったまま返事もできずにいたら。


 そっと頭を撫でられた。


 ああ、花びらが落ちて来たのかな。そう思ったのに。髪を梳くみたいに、頭を撫でるみたいに、また撫でられて。


「好きだよ」

 切なげな、何かを堪えるような、少し熱の篭ったその呟きが、はっきり聞こえた。


 驚いて意識が浮上したものの。何を言えばいいかもわからなくて、つい、寝たふりを続けてしまった。


「来年も君と花見に来れるかなぁ」

 なんて、なんだか寂しそうに言われて。私も、また来年も来たいと思った。


 寄せられた好意が嫌ではないんだ。

 そう自覚したら駄目だった。


 頬が熱い。耳も熱い。体温がぎゅうっと顔に集まって、きっと真っ赤になっている。


「え……もしかして、起きてた……?」


 誤魔化しきれずに視線を上げたら、相手の顔も真っ赤で。

「うん。なんか、ごめん……?」


 私が『ごめん』なんて言ったから、勘違いさせたらしく。顔が曇る。

「そうだよね。女同士で……」


「あ、いや。そういう『ごめん』ではなくて」

「え?」


「寝たふりしようとしてごめん。私も結構君が好きです……」

 そう言ってから、なんだか私の方から告白したみたいだなと思ったら、ちょっと悔しくなった。


「私、さっきは半分寝てたから、もう一度聞かせて」

「あ……え? いや、その、ええと」

 結局。ちょっとヘタレな彼女にちゃんと告白させるまで、15分もかかったのだった。





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葉桜と君の手 夕月ねむ @yu_nem

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