5話

 自宅に帰った向太郎は、すぐにシャワーを浴びてスウェットに着替え、ベッドの上にいた。

 手にはスマートフォン。メッセージアプリを操作している。

 相手の表示名は高下瑞季。

 高下らしく、アイコンはなんの写真も設定していない。

『家、着きました?』

 今から十分前に高下に送ったメッセージ。

 動画を見ながら待っていると、通知音が短く聞こえた。

『返信が遅れた。ごめん。もうとっくに着いているよ』

『無事に着いたみたいで良かったです』

 しばらくぽつぽつチャット雑談が続く。

 そういえば……と向太郎は、高下の今日の様子を思い出す。

(高下主任って俺といるとちゃんと楽しそうにしてるけど、居酒屋の最後らへんはなんか……すごく寂しそうな顔してたんだよな)

 片肘をついて、時折ぼんやり窓の外──夜の街を見ている高下の姿。

 憂いを帯びた切れ長の黒い目。時折目を伏せる時に出来る長いまつ毛の影。儚い雰囲気。

 居酒屋の古びたテーブル席に座っているだけなのに、まるで近現代の西洋絵画のようだった。

 妖しげで、非現実的なのにそれでいて暖かみもある美しさを纏っている。

 高下は自他共に認める美青年だ。

 容姿が良いから、惚れ惚れして気になるのだろうか。

 ──いや、そうではない。

 一緒にいるのにふとした時にどこか遠くに行ってしまいそうな、何かを諦めている、あの目。

 本心からではないように見える皮肉。

 もっと根本的な高下にある孤独。

 それを何故か、自分がコラボカフェで笑い合った時のように解消出来たら……と思う。

 だから、向太郎は高下の姿が気になっていた。

 ──どうしてだろう。

 自分でもその心情の正体が分からない。

 やはり同じ趣味の人間がいなくて、高下はずっと寂しい思いをしていたのだろうか、という考えしか今は浮かばない。

(それなら、俺がこれからも連れ出してやろうかな)

 一応、向太郎はそのような結論に至った。

 次はどこに高下を誘おうか。

 そう思いながら文字を打ち込む。

『次、何やりたい?』

 そのようにコメントを送ると、高下から「?」と犬が考えている無料スタンプが送られてきた。

『だから、お互いの都合いい日にまた遊びましょうってこと』

 向太郎は返信した。次にURLを貼り付ける。

『このDVD見たことある?』

 URLの詳細は、ラブハニのライブDVDだった。

『見たことない』

 高下の返信に、向太郎はすかさず発案する。

『これ、去年のライブのやつ。俺が持ってるんですけど、また遊ぶ時池袋とかなんかのレンタルルームで見ましょうよ』

 そこから一時間程度。

 高下からの連絡がなくなる。既読はついたままだ。

(俺、なんかまずいこと言った……?)

 何か失礼を働いたのだろうか、と向太郎は焦る。

 再びコメントをするか、悩む。

 すると、ピコンッというメッセージアプリの通知音が鳴った。

『レンタルルームだとお金がかかる。だから無料でDVDを見れるところがある』

 高下の言うことの意図がわからない向太郎は、猫が「?」と悩むスタンプを送った。

『どこ? どういうところだよ、それ』

 向太郎が茶化すと、コメントがすぐにつく。

『だから、それは……俺の家』

 意外な答えだった。

「え」

 向太郎は声を出す。

『俺の家。映画鑑賞用のホームプロジェクターがある』

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る