第6話: ユウラク海外戦略評価
2008年末
ウィンブルドン(ロンドン)
芝生の匂いが湿った風に混じり、観客のざわめきがセンターコートに広がっていた。
ケンイチは指定席に腰を下ろし、視線をコート脇に走らせる。そこに、小さくではあるが確かに「YuRaKu」の文字が並んでいる。
世界中に中継される映像の端に、自分たちの名前が映り込む。
その事実が、企業の実利を超えて、心の奥に小さな誇りを灯していた。
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全仏オープン(パリ)
赤土が舞い上がり、選手が滑り込みながらリターンを打つ。
観客席では「ユウラク?」と囁き合うフランス人の姿がある。
まだ馴染みは浅い。しかし耳に届いたその一言が、ケンイチにとっては数字のレポート以上の手応えとなった。
ブランドは契約ではなく、人の口にのぼってこそ広がる──彼はそう実感した。
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チェルシー(ロンドン・スタンフォードブリッジ)
スタジアムは青と白に染まり、試合前から熱狂に包まれていた。
クラブ幹部とのミーティングでは「数字は順調だ」と歓迎を受け、協働の可能性を広げようとする前向きな空気があった。
外に出ると、ユウラクのロゴが印刷された小旗を振る少年が目に入った。
その無邪気な姿に胸が熱くなると同時に、彼の耳に届いたのは街角のデモを報じるラジオのニュースだった。
移民排斥を叫ぶ群衆、失業率上昇への苛立ち──。
光が広がれば、必ず影も濃くなる。
胸の誇りと不安が同居したまま、ケンイチはスタジアムの歓声に身を沈めた。
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