―― キョ ウ シ ン ――

もちもちしっぽ

第1話 噂を拾うもの




 ○××○年×月○日。

 G県某所。コインランドリー内にて、三十代女性の変死体が発見された。

 防犯カメラの映像から、近所に住む二十代の男が捜査線上に上がる。

 事件発覚から三日後、男を逮捕。


 一ヶ月もするうちには、報道もされなくなった殺人事件の一つだ。





――ねぇ、知ってる? コインランドリーの話。




――知ってる、知ってる! ヘブンズの後ろの、でしょ? 何年前だっけ? 女の人が殺された……。




――あそこ……、出るんだって……。




――うそぉ!!




――ねぇ、その女の人。どんな殺され方したか、知ってる?




――……知らない。




――マワサレタんだって。




――え? マワす……って?




――だからぁ、回されたの。大型乾燥機に入れられて、ぐるぐる、ぐるぐる……。




――うそでしょ!




――あそこのコインランドリーの、八番の乾燥機……。今でも爪痕が残ってるんだって!!




――いや!




――なぁんてね! 冗談よ、冗談!




――もう、やめてよお!





……

…………

……




「ひとは恐怖に名前を付ける。形を与えたがる。だって、正体が分からないものは怖いから」


 傾けた傘の下から、青年の柔和な顔がのぞいた。

 蛇の目を叩く雨音と、優しげな声がテンポ良く響く。


「ひとの恐怖は怪異を生む」

「恐怖は伝染し、噂になる」

「噂は怪異を一人歩きさせる」


 黙って耳を傾けていた男子高校生は、小さく嘆息した。


「簡潔にお願いします」


 青年が笑顔を深め、傘の下に彼を手招く。


「噂がね、また新しい怪異を連れてきましたよ。行きましょう、ナオくん」


 ナオ……学生服の襟元まで正しく留めた少年は、読んでいた本を閉じ、蛇の目で遮られた異界へと足を踏み入れた。



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