34話 真実の輝き
テティからマリアについてあれこれと話していると、突然、坑道を掘り進めていた作業員たちの方からどよめきがあがった。
「なにかあったのかしら?」
中へ入ろうとした時、いつのまにか前に立っていたリンクに止められる。
「確認してまいりますので、お待ちください。」
リンクはサッと坑道内へ入り、ほどなくして戻ってきた。
「殿下に確認いただきたいものがあるとのことです。危険はないようなので、参りましょう。」
坑道内は足場が組まれ、ところどころに松明がかけられている。
外の光がまだわずかに差し込んでいたが、奥へ進むにつれ、やがて松明の炎だけが頼りになっていった。
「アメリア王女!いらっしゃいましたか! これを見てください!」
さきほど声をかけてきた採掘師が、岩の一部を指差した。
茶色い岩に混じって、明らかにキラキラと光る箇所がある。
「……これ、まさか金鉱石ですか?!」
期待に満ちた声で尋ねると、採掘師はゆっくりと首を振った。
だが、その瞳は落胆ではなく、確信に満ちていた。
坑道の奥がざわめきに包まれる。
松明の炎がゆらめき、湿った空気に鉱石の匂いが満ちた。
「これは……シンハライトです。」
その言葉に、作業員たちの息が止まる。
アメリアは思わず岩壁へ駆け寄った。
「シンハライト……?」
指先でなぞると、茶褐色の岩肌の間から透明な光の粒がのぞいていた。
松明の角度が変わるたび、青、橙、緑――淡い光が移ろい、まるで生きているかのように輝く。
「はい。ごく稀にしか見つからない宝石です。
取引される宝石の中でも、最も高価な部類に入ります。
この大きさ……奇跡ですよ、王女様!」
「まさか……」
息を呑み、アメリアは目を見張った。
(本当に……この道が、答えてくれたのね)
胸の奥に熱が込み上げたそのとき――
ざわっ。
坑道の入り口が騒めいた。
アメリアの周りを囲んでいた人々が二手に割れ、壁際へと寄っていく。
「――なんの騒ぎだ」
低く響く声。
松明の炎を背に、ヴァルクがゆっくりと歩いてきた。
濃い影の中でも、その姿だけは迷いなく際立っている。
「ヴァルク!」
アメリアの声が弾んだ。
アメリアの姿をとらえると、ヴァルクは足早に駆け寄った。
「アメリア…どうして中にいるんだ?」
眉を下げて頰に触れるヴァルクの心配を他所にアメリアは声を弾ませる。
「見て、これを! シンハライトが見つかったの!」
ヴァルクは無言で岩壁に近づき、手袋を外して結晶に触れる。
一瞬、光がその瞳に反射した。
「……間違いない。本物だ。」
静かな声に、驚きと歓喜が混ざっていた。
「この山に、これほどの宝が眠っていたとはな……。
まさか本当に“宝探し”が成功するとは思わなかった。」
「私たちが信じて掘り進めた道だもの。」
アメリアの言葉に、ヴァルクはふっと微笑み、彼女の肩に手を置いた。
「……そうだな。」
名前を呼ばれただけで、胸の奥がじんと熱くなる。
周囲のざわめきが遠のき、松明の灯りだけが二人を包んでいた。
「ヴァルク……」
彼は結晶を見つめながら、小さく息を吐き、後ろの侍従に命じた。
「この発見は、ノルディアにとっても王国にとっても大きな意味を持つ。
すぐに国王へ電報を入れろ。」
その声を聞いた多くの作業員たちから野太い歓声があがる。
彼らもまたアメリアの宝探しが成功することを願っていたのだ。
アメリアに向き直ると、困ったように微笑む。
「君の願う結果になるだろうな。」
「そうね、ノルディアの新しいはじまりよ」
アメリアは微笑み、指先でシンハライトの光をそっと撫でた。
――真実の光。
この時のアメリアは、それが二人の未来を映していると、確信していた。
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