<第二部完結>オスガキ詠唱の聖者VS終わってる女騎士団
なごりyuki
第1話 私の特質詠唱・特質魔力=この世界の女性に特効
中年サラリーマンだった私は、異世界に転生した。
男性というものが希少で、貞操観念も逆転している。女性の体格が恵まれており、男性の方が儚い。
そんな異世界に、私は再び男性として生きることになった。愛着のある日本人らしい黒髪、黒い瞳で転生できたのは少し嬉しかった。
クリス・モモタロー。それがこの世界での私の名前だ。
今の年齢は15歳。この世界では成人である。
この世界の教会が抱える組織、“浄化の掌”に所属している私は現在、巨大都市国家ヴァレスグランドに配属されていた。
正確に言えば、ヴァレスグランドを守護する騎士団に組み込まれている。治安維持を含め、都市に住まう人々の暮らしを騎士団と協力して守る。
それが、今の私の職務だ。
「あれあれ~? もしかしてぇ、お姉さんたち苦戦してるんですかぁ~?」
今、私は悪口を言っているのではない。断じてない。これは詠唱である。誇り高き騎士団員たちを鼓舞し、強化するための戦闘用魔術である。
「くすくす、そんなワケないですよねぇ~♪」
私は笑顔を浮かべている。できるだけ生意気で、憎たらしく、挑発的で、それでいて神秘的な笑みを浮かべるよう努力する。
こうした仕種が、私のバフ魔法の効果を増加させる。
転生特典、という言葉が相応しいかどうかは判然としないが、とにかくそういう特質なのだ。
これが私のユニークスキルらしい。
なんということだ。
「お姉さんたちはぁ、とぉっても強ぉい騎士様ですから、絶対に負けないんですよね~?」
私は詠唱を続ける。バフ魔法の効果を高めるため、声と言葉に感情を乗せる。
今の私の目は死んでいることだろう。
だが、これは詠唱だ。魔法の詠唱なのだ。私の特質スキルである。文句を言っていても始まらない。会社で働いていたときと同じだ。受け入れるしかない。
そう自分に言い聞かせて正気を保つ。
「ほぉら、頑張れ♪ 頑張れ♪ そんな雑魚なんて、お姉さん達が本気を出したら一発なんでしょ~?」
後方支援として魔法を詠唱している私の前方では、誇り高き聖ヴァレスガード騎士団が戦っている。
荘厳な重装鎧を纏った勇敢な女性騎士達。対峙しているのは、
王都の外れにある廃村。街道からも離れた、忘れ去られた場所。そこに巨大な呪瘴魔が現れたと騎士団に報告が入り、その討伐任務に私も同行しているのだ。
今回の呪瘴魔は、巨大な獣の形態だった。影が凝固して実体化したような体表には、黒々とした瘴気が渦を巻いている。炯々と光る赤い双眸には、人間への剥き出しの害意。
「GUUUOOOOOOO……!!」
家ほどのもある巨体を震わせ、呪瘴魔が吼える。廃村に残って朽ちかけた建物がビリビリと震えて、あるものは崩れ落ちた。身体にぶつかってくるような、凄まじい咆哮だ。
だが女性騎士達は怯まず、苦戦しつつも呪瘴魔を取り囲んでいる。
しかし、優勢とは言えない。今回の呪瘴魔は強力だった。このままでは包囲を破られてしまう。部隊を各個撃破されれば、騎士団は敗北するだろう。
「もしかしてぇ……。お姉さん達、負けちゃうんですかぁ~?」
だが、そこで私の詠唱も完成した。この戦場を包むように、深紫の輝きを帯びた魔法円が幾重にも象られる。私の魔力光が粒子となって舞い、風に塗されていく。
「くすくす、だっさ~い♪ 雑魚雑魚じゃ~ん♪」
私の支援魔法は、戦いの最中にある女性騎士達の肉体を強化し、疲れを濯ぎ、瘴気による精神汚染を清めて、鮮烈な戦意を蘇らせる効果を持つ。
「「はぁぁぁぁ~~?」」
呪瘴魔と睨み合い、対峙していた女性騎士達が力強い声を上げた。
「負けないが~ッ!? 返り討ちだが~!?」
「今から本気を出すから黙ってなさい……!」
「こんな魔物に大人が負けるワケないだろぉがッ!」
「腹立つゥ……! 見とけよこの野郎……!」
「ちょっと絶世の美少年だからって調子に乗るんじゃないわよ!」
顔を赤くして目を血走らせた女性騎士達は、叫ぶように言いながら私の方をギロリと睨みつけ、即座に呪瘴魔に突撃していく。
もはや部隊や隊列など知ったことかといわんばかりの狂戦士状態だ。
呪瘴魔に躍りかかる騎士達の猛攻。それを援護する魔術士隊の女性騎士たちも、目を吊り上げて私の方を睨んできた。怒っているというよりも、極度に興奮しているという目つき。
「チビガキがよぉ~……!!」
「今日という今日は勘弁なりませんわねぇオイ……!」
「えぇ……! 帰ったらお仕置きしてやるわ!」
「そろそろマジでワカラセねぇとなぁ~!!」
彼女達は太い声で口々に言い合ってから、攻撃魔法の詠唱に入っていた。
私の特質バフ魔法は、魔術士達の集中力、精神力を上昇させる効果もある。今の彼女達の攻撃魔法も威力を増しているはずだ。放てば、それは呪瘴魔へのトドメになるだろう。
「相変わらず、俺というか、お前の魔力は女共に効果抜群だな……」
詠唱を終えた私の足元からは、怯えたような声が立ち昇ってきた。
私の足元に佇む影。その中には深紫の光が2つ灯り、三日月のように裂けた口が邪悪そうに動いていた。子どもの落書きのような顔が浮かんでいる。
その単調な目鼻立ちが、却って不気味さを際立たせていた。この影こそが、私を転生させた張本人であり、ある意味で私の命の恩人でもある。
そして、今の私が抱えている脅威でもあった。
彼の名前はボブ。私が名付けた。私が暮らしていた世界、地球では“淫虐の大妖魔”として恐れられていたらしい。
そんなボブだが、私はある方法で彼に手綱をつけ、しっかりと握っていた。無闇に暴れさせることはしないし、彼の力を有用に使わせて貰っている。
「あの女騎士共、魔物と戦いながらお前を襲うことしか考えてねぇって感じだな……。気を付けとけよ。今晩あたり、マジで貞操のピンチだぞ」
そわそわとしたボブの声。私は首を振って、女性騎士達へのバフ魔法の維持に意識を戻す。呪瘴魔と戦う勇敢な彼女達を、私は魔法によって支える。
「彼女達は誇り高い騎士だ。今は一時的に、私の強化魔法で高揚しているに過ぎない」
「女騎士共への信頼が厚過ぎるんだよお前は。何回も言ってるが、お前が纏ってる魔力は俺のモンだ。そして俺の魔力は、女に強烈な性的興奮を与えるんだよ」
私の影が、ぐいんぐいんぶにょんぶにょんと動いて喚く。だが、ボブの必死な早口は私にしか聞こえない。そういう性質なのだ。
「今の女騎士共はな、お前をワカラせることで頭が一杯なんだよ。お前、自分自身にかけた呪いのことを忘れたわけじゃねぇだろ」
「仮に、きみの魔力に中てられて興奮していても、彼女達はそのように一線を越えるようなことはしない」
呪瘴魔の巨体を打ち砕いていく女性騎士達の勇姿を見詰めながら、私は緩く首を振って小声で応じた。断言する。
「彼女達は、きみの……いや、私の魔力になんて絶対に負けない」
「いやいやいやいや……!」
私の影が、大袈裟なほどにブンブンと両手を振って、戦いの最中にある女性騎士達と私を高速で見比べた。
「危機感持てよ死ぬぞ? 死んじまうぞ? ほら見ろ! あんな血走った目と荒い鼻息で、お前のことをガン見してきてるじゃねぇか!?」
影の中に浮かぶ深紫色の光が、情けない顔になって捲し立ててくる。だが、私はまともには取り合わない。
女性騎士たちが呪瘴魔を滅ぼしつつあるが、必要であれば、私は更にバフ魔法で彼女達を支援せねばならないからだ。油断はしない。
「ちょっとあの、ホント、お願いします……。無視は勘弁してください。“淫虐の大妖魔”と呼ばれた俺の話を信じてください……」
ボブが命乞いの口調になった。私の影だけが、両手を合わせて拝むようなポーズになっている。私は目線だけで、自らの影を見下ろした。
「……忠告ありがとう。大丈夫だ。戦闘が終われば、彼女達には治癒を施すことになる。そのときに、いつもよりも入念な鎮静魔法も重ねて施しておこう」
「そうっすね。うん、是非そうしてください」
私の影だけがペコペコと頭を下げてくる。それから、邪悪な声をボソッと溢した。
「……お前が童貞を失ったら、俺まで呪いで死んじまうからな」
「そんな心配は必要ない。さっきも言っただろう」
私はもう一度断言する。
「誇り高い彼女達は、私やきみの魔力になど負けはしない」
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