恋をしていたあの頃へ
@hayama_25
寂しさは熱を帯びて
「夏って、どうしてこんなに寂しいんだろうね」
彼はふと呟いた。
少し遠くを見つめるような目をしている。
夏は賑やかで、煌めく季節のはずなのに。
寂しさを感じるなんて、考えたこともなかった。
「え、そう…?冬の方が寂しくない?日が暮れるのも早いし…」
彼はただ静かに微笑んだ。
その横顔が、なぜかひどく切なく見えた。
言葉にしない何かが、そこにある気がする。
でも、聞けなかった。
何かを言いたいのに、何を言えばいいのかわからない。
彼の沈黙が、私の中に小さな波紋を広げていく。
彼は時折、ふとした瞬間に寂しそうにする。
何かを思い出しているのか、
それとも今この時間にすら、どこか届かない場所を見ているのか。
その心にある寂しさには触れられそうにない。
私はそんな彼を知りたかった。
それでも、それと同時に、どこかで怖かった。
彼のその寂しさが、私にはどうしようもできないものだったら。
そう思うと、言葉が喉の奥で絡まってしまう。
結局うまく言葉を探せず、代わりに夜風を感じる。
遠くで誰かの笑い声がして、車のライトがゆっくりと通り過ぎる。
彼は何も言わず、ただ夜の街を見ていた。
その視線の先にあるものを、私は知らない。
過去なのか、未来なのか。
それとも、誰か別の人の記憶なのか。
こんなに騒がしいのに、彼の沈黙だけが際立っていて。
まるで、世界の音が彼には届いていないようだった。
彼の心にある寂しさを、無理にこじ開けるようなことはしたくない。
だから、ただ隣にいることを選んだ。
触れない距離を保ちながら、彼の沈黙に寄り添う。
それだけで、少しでも彼の孤独が和らぐなら。
風が少し強くなって、彼のシャツの裾が揺れた。
その瞬間、彼がふとこちらを見た。
目が合った。
何かを言いかけたような表情だったけれど、結局彼は何も言わなかった。
そしてまた、静かに微笑むだけだった。
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