第4話 黒猫の招き

 …戦いの次の日。


「…ふ〜む…」


「アグアグミャウミャウ…!」


「案外図太い野郎だな、お前…」


「ミャア!」


先日拾って来た汚れた毛玉はキャットフードを貪り食い、ミルクの皿に頭を突っ込んでいる。やんちゃという言葉の似合う奴だが、昨日の様な凶暴さは無い。


「ぬあぁ…もうちょっと綺麗にしなさい…」


「ミャア!!」


撤回する、こいつは凶暴極まりない。飯の邪魔をされるや否や爪を立ててきやがる。


「いでいで…お前昨日まで傷だらけで骨が浮き出ててただろ…!傷は直しといたって言っても、何でここまで元気に蘇ってやがる…?」


「ミャアーッ!!」


今朝病院に連れていったが、あまりにも回復が早い。病院の先生ら曰く、ちょっとした栄養失調だそうだ。もしかして猫じゃないのか?


ピンポーン…


「あ?誰だよこんな時間に…またあいつらか?出たくねーんだけど…」


「オイ!ごう、起きてる?起きてんなら開けろー!」


(…姉貴?この前来たばっかなのに珍しい…)


ドアの前には彼の姉が立っていた。


「よ!それじゃ早速用件…を…」


「ミャア!!」


姉の顔が引きつる…そういえば、動物は苦手だっただろうか?


「そ、その猫は…!?あんたペット飼う金…ん!?キャットタワーにおもちゃに…こんなに色々揃える金はどっから…」


「もちろん遺産からは出してない、心配はするな。」


姉は余計に顔を引きつらせてドン引きしている。


「…うわぁ…キモっ…!?あんたそういうキャラだった…!?」


「失礼だな鏡香きょうか…俺はいつもこうだよ。」


「…まぁ、豪が自立してるならいいけどさ…そうだ、忘れてた…」


「なんだよ?」


「アンタ、昨日猫森に行ったでしょ。」


…そんな事を言う為だけに来たのか?


「なんだ?昨日は寝てたぞ?」


「嘘つけぇ!昨日ここにウチの職員来てたろ!ゴリラみたいな男と、眼帯の女だよ。あと、アンタのパーカーもあるんだよ?証拠残しまくりだよ!」


「…知り合いかよ、それなら誤魔化せないか。…それで、何が言いたい?」


「ウチで働け、色々気になること山積みなんだよ。」


正直、死ぬ程嫌だが…そうも言ってはいられない…


「アンタを養ってた恩をまだ返してもらってないからね〜?嫌とは言わ無いよね?」


「…ハァ〜…すっげぇイヤだわ…」


「うっさい、さっさと着替えてこい。」


「へ〜へ〜…あ、コイツ連れていきたいんだけど…」


「ミャ!」


「だめよ、いくら好きだからって…」


「昨日捕まえたヤツだって言っても?」


「………!?まさかアンタ!?」


理解してくれた様だ。昨日俺が連れ帰ったのが化け物の一匹だと。


「しっかり抑えときなさいよ?」


適当に着替え、準備を済ませる。


「うわ…アンタまだその服着てるの?それ確か高校の時に買った服じゃ…タンスには…うわぁ…何このクソダサい服の数々…!?」


「いいのあった?」


「この中でそれが一番マシだと思わなかった…」


「ふ〜ん…」


車に乗り、何処かへと向かう。他人の為に動くなど、随分久しぶりな感じだな…


「は〜い、ついたよ〜」


「…めんどくさ…」


───────……国立環境技研東京支部…


「彼、来るのかね〜?ドクターは秘策があるって言ってたけど…あの男、かなり強情で気紛れな感じだ…」


「僕アイツ嫌い…治してくれなかったし…」


「…陰口など恥ずべき事ですが、私も同感です…」


「…現場で仕事出来ない私が言うのも難だけど、聞いてるだけで腹立つわ…これだから都会の学生ってのは…!」


フィリエを除いた全員が包帯を巻いて傷だらけである。


「フィリエちゃんはどう思う?」


「…分かりません。」


「重傷だったフィリエちゃんだけ丁寧に治されてるからね。」


気に食わないが、改めて礼を言わなくてはならないとも思った…


「やー!皆!待たせた〜!」 


「………ども。」


「ほ、本当に来た…!」


少しして来た彼は情報通りの外見だ。よれた服に灰色のボサボサ髪、垂れ下がる様な猫背…目をしょぼしょぼさせて欠伸をしている様子はだらしないという他無い。


「……」


彼の表情からは心底面倒だ、という言葉が聞こえてきそうだ…


「…久滅惧くめつぐ ごうです。」


「あんたね…もうちょっとハキハキしなさい?」


ドクターは彼の知り合いらしい、随分気楽な雰囲気である。


「ど〜も〜昨日ぶりだね。私は流川るかわ静葉しずは、この部隊の隊長だ。説明が難しいが、様々なものを見る能力がある。」


「副隊長の小森こもりひびきだよ。分身できるよ。」


「私は獅子堂ししどう徹也てつやと申します。能力は身体の硬質化」


「…田原たはら豊姫ときです。能力は読心術。」


「フィリエ・ディナミスと申します…私は硬質の糸を操る能力を使えます。」


部隊員の全員が自己紹介を終える。


「ドクタ〜、彼は知り合いなの?」


「知り合いも何も、弟だよ。それにしても…白髪増えたね?もう灰色にしか見えないじゃないか。」


全員が驚く。確かによく見ると、彼とドクターの顔付きは似ている。


「まぁ、見ての通りだらしない奴でね…まさか私達の業界に関わってるとはね。」


「え〜…豪さん、一つ聞いても?」


「なんすか…」


「そのケージは何だ?」


「昨日捕まえたヤツです…」


「……え?」


ケージの内の黒猫は開けろと言わんばかりにみゃあみゃあと鳴く。そして気付いた、あの忌形の本体だと…

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