競馬好き転生 〜 G1を勝ちまくって、必ず大切な君を迎えに行く
@kuronori0825
第1話 競馬好き、死す
『G1を勝ちまくって必ず君を迎えに行く。だから俺を信じて待っていてほしい』
自分のために、好きになった女の子のために、俺はこれから不可能と思えるほどの難題に挑む。
「嬉しい……あなたはいつも希望をくれる。あなたの言うことなら、何でも信じられる。信じて……待っています」
大好きな競馬で、俺の力で勝って勝って勝ちまくってやる!
◇東京のとある場所
「今週末はいよいよダービーだ!めちゃくちゃ楽しみだ」
神崎 勝馬(ショウマ) 25歳 競馬好きのサラリーマン。
競馬が好きで好きで毎週末はガッツリ楽しんでいる。彼女はいない。そのせいか年齢=彼女なし歴である。
「抽選外れて現地参戦はできなかったけどその分明日は仲間内で競馬談義しながらワイワイやるんだ」
俺はワクワクしていた。競馬のおかげで毎週末をこんな気持ちで迎えられる。俺は幸せだ。
そんないつもの帰り道。今日の仕事を終えて歩いていると帽子を目深に被った女性とその後ろをキョロキョロしながら歩く男性を見た。
(いやいやまさかな)
嫌な想像が頭をよぎる。男が女性を狙ってる……とか?
(まぁ一応出来る限りで確認するか。女性が行く方へ少し先回りして……)
ちょっとだけ付いてってみよう。女性はちゃんとした道を歩いてるから狭い裏通りを抜ければ簡単に先回りできるし。
99.9%俺の考えすぎだろう。そう思っていた時が俺にもありました。
結論から言おう。俺の予想は大当たりだった。競馬の予想が当たるのは嬉しいが、この予想は当たっても全く嬉しくない。
刃物を取り出す男性と気づいてない様子の女性。性犯罪だったら服を脱いだり脱がせたりするから時間がかかる分何かできたかもしれないのによりにもよって殺人かよ。
「危ない!」
俺は叫んだ。でも咄嗟では女性も何が何だかわからなかったみたいで俺の方を向いただけだった。
俺は走って女性を庇った。一応犯人を突き飛ばして女性との距離を開けさせることには成功した。
でも……俺は刺されてしまった。
「キャアアアア!!!」
悲鳴をあげる女性。
俺は痛みを必死に堪えて指示を出す。
「逃げろ!誰か呼んでくれ!」
彼女は泣きながら助けてと叫んでいる。これならすぐにでも人が来るだろう。
そして犯人の男は逃げた。それはまぁ良くないけど良かった。これ以上刺されるのはごめんだ。
「血が……救急車!」
女性は慌てながらも急ぎ救急車を呼んでくれる。
「花咲……騎手……?」
声でわかった。彼女は中央競馬で見る女性騎手、花咲華代だ。
「救急車呼びました!もう少しの辛抱です」
「ありがとう……ございます」
ああ、わかる。死ぬってわかる。間に合わないだろう。
「花咲騎手……握手してくれませんか……?」
「私のこと知ってるんですか!?」
「競馬ファン……なんです」
俺は最後の力を振り絞って手を差し出す。
花咲騎手は血まみれの俺の手を両手で包むように握ってくれた。
競馬好きの俺が騎手を守れたのはなんか嬉しいな。
親兄弟はもういないし……彼女もいない。でも死にたいわけじゃない。未練はあるに決まってる。
そんな俺が最後の瞬間に思うことがこれか。
「もっと遊びたかった。もっと競馬したかったなぁ」
それが俺の最後の言葉になった。
◇
気がつくと俺は真っ白な空間にいた。これが死後の世界ってやつか?死んだことないからわからないな。
「初めまして神崎 勝馬君!僕は神様だよ!君をここに呼んだのは僕さ!」
目の前には神を名乗る馬の被り物をしたふんどしの男。
「その何だこの変態はと言う顔をやめろぉ!?ちなみにこの格好は君の神様のイメージだからね!?人によって見える姿が変わるやつだからね!?」
「えええ!?マジでか。俺の神様像ヤバすぎ!?」
ショックだ。
「そう、君の中の神様のイメージは馬面マッチョのふんどし男性と言うことだよ」
知りたくなかった新事実。死んでるはずなのに心が痛いよ。
「ごほん!それはいいとして君にはお礼を言わなきゃね。よくぞ僕の推しを助けてくれた!」
「推し?」
「花咲騎手のことさ!」
そこからはこの馬神様の花咲騎手談義が始まってしまった。俺も割と詳しい方だと思っていたが次元が違う。俺が持つのは<知識>だがこの神様が持つのは<愛>だとわかる。
「ああ、変な勘違いはしないでくれよ?僕は彼女を推しているが何かしてあげられるわけじゃない。だからあの時も助けてあげられなかったんだよ」
神様のルールには色々あるらしい。手出しできる時もあるが基本的には何もできない。そう言うことのようだ。
「推しが殺されたら<こんな世界いらない>モードのメンヘラになるところだったよ。いやぁ助った」
え?それってもしかして俺世界救ってない?マジで?
「それで僕は君を助けてあげることにしたのさ」
「神様のルールとかはいいんですか?」
「君死んじゃったからさ。死者になら多少便宜を図ることができるよ」
おおお!?そうなのか!しかもこれまさかの転生か?転生チートものきちゃったのか!?
「馬にしてあげます」
……なんて?
「死にゆくあなたの最後の願い、聞いていましたよ。競馬がしたかったと」
言ったか?………………言ったわ。確かに言った。
「思う存分できるようにしてあげますよ」
「いやいや、あれは競馬予想がしたいって意味でぇぇぇえええ!?」
いきなり俺は頭上に空いた穴に吸い込まれる。
「え!?ちょ!?なにこれ怖いんだけど!?」
黒い穴の中に強制的に吸い込まれていくの超怖い!
「グッドラック!また会う日まで。新たな優駿よ。ターフを駆けよ。なんちて」
「俺は!競馬予想がしたいって言ったんだよおおおお!」
………………
………………
………………
「行ったか。強引になってすまない!次会った時にちゃんと話すから許してくれ!転生特典として人間の思考力は残してあるからな!それじゃまた!」
◇本当に馬に転生しちゃった人のその後
「仔馬かわいいな」
俺も仔馬だがな!どうもこんにちは前世は人間、今は仔馬 神崎 勝馬です。俺の人生どうなってんのよ急転直下で動きすぎじゃない?人生は終わってるだろって?その通りでございます。
「何故か人間の時のように思考だけは出来るんだよなぁ」
まぁ体が馬じゃ意味ないか。人と会話できるわけじゃないし。
全てを受け入れた今、俺は穏やかな気持ちでいた。
生まれた直後から何日もかけて徐々に頭を整理して今に至る。
こうなったら人生ならぬ馬生をエンジョイしてやろう。開き直り万歳だ。
元よりこちとら競馬好きよ!興味がある世界にどっぷりっつーかど真ん中プレイ中だよ!
「そして俺は可愛くない仔馬」
中身人間なんでね。母馬に甘えたりとかあんまりしない。でも暇だから動き回ってる。これが何だかめっちゃ楽しいのだ。
牧場の人から見たら「あいつ落ち着きなさすぎ」くらいの評価だろう。
「それにしても俺が競走馬になるとは思わなかったな」
あの馬神が言ってた通り、俺は未来の競走馬候補だ。
俺の父親は《グラニ》。そのラスト産駒。それが俺。
《グラニ》は伝説的名馬だ。しかしその子供達――つまり産駒は微妙だ……。
ド派手な活躍をした馬がいない。競馬予想で狙えない。グラニ産駒いうだけで即切りしたこともあるくらい信頼できないのである。
「俺も微妙な能力なんだろうか。まぁそうだろうな。だって兄も姉も軒並み微妙なんだし」
競馬はブラッドスポーツ。つまり血統が非常に重要だ。異世界の重度差別貴族かってくらい選民ならぬ選馬の世界。両親で能力がある程度見えてくる。
たまに突然変異かってくらい活躍するやつが出てきたりするから血統を過信してはいけないけど。
競走馬に転生したかったわけではないが転生させられたからにはせめて活躍してみたかったというのが本音。馬神様、血統くらいサービスしてくれてもいいじゃんよ。
「その理屈で行くとあの仔馬は間違いなく選ばれしものだな」
俺の視線の先には真っ白い毛並みの馬。いわゆる白馬だ。お嬢様方の憧れ。みんな白馬の王子様を待っている。
「白馬なんだから
美しい。そうとしか言えない何処か神秘的とも思える姿。
《ブラックフリート》産駒は日本での活躍実績豊富だ。血統的に申し分ない。聞いただけでこれは強くなるぞって思う。
「テレビ局が来てるし」
テレビのカメラが見える。綺麗なアナウンサーの女性が何か喋っているが遠くから見ているので何を言っているかはわからないけどドキュメンタリーだろうか。
「話題性のある姿に将来性のある血統、俺とは大違いだな」
世知辛ぇ……。
俺は馬としての生活に戸惑いながらも順調に成長。特に問題を起こさずいい子として過ごした。
そして1歳になった俺は運命のセレクトセールを迎える。
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