「将来の夢をプレゼンしてください。」
「将来の夢をプレゼンしてください。」
先生が当然考えつけるだろうといったふうに僕らに伝える。それが特別ないことに僕は困っているのに。
「小島くんは継がんの?」
「うん、親の代で畳むんやって。」
「勉強できるんやし何でも書いといたら。ただの授業やん。」
「それはそうなんやけど。それに合わせて進路相談とかも進められるわけやし。」
「適当書いとくのも面倒臭いんや。まじめというか何というか。」
「まじめとかちゃうけど。」
セクシャリティのことも皆に隠している。なんなら嘘をついて女の子の話をすることもある。同性を好きになってしまうことはコンプレックスだしアイデンティティだ。周りは平然と性の話をして、共有して、妙に楽しそうに見える。嘘をつくなと育てられて、本当は一番つきたくない嘘を僕はついている。その嘘をつかないとこの田舎の、学校という狭いコミュニティの中での僕の居場所はなくなってしまうだろう。核心的な嘘をついている限り、他の何を本音で話してもそんなコミュニケーションは無価値だ。
「徳重くんは何て書くん?」
「俺?俺は実家の店継ぐ。長男やし。」
「あぁ、そうか。羊羮屋。」
「いや和菓子、他にも作っとるんよ?」
「継ぐの嫌とかないん?」
「嫌やないよ。だって親とか爺ちゃん婆ちゃんが続けてきた商売よ?俺んときでなくすわけにいかんし。」
「えらいなあ。」
「他にやりたい職業もないし、むしろ継げるってある意味楽やん。」
「就活いらんね。」
「大学受験もね。ここから通える大学ないしそしたら仕送りもらわな無理やん。学費もいるし。それやったら働けって父ちゃん言うと思う。」
「うちなんか元々はいい大学行けって感じやったもん。」
「頭いいんやから夢ないなら行ったほうがいいよな。」
「好きなようにしろって今は言うかもやけど。」
「好きなんがないんだろ、それで。」
「うん。書けることがない。」
「宝くじ当てますとか。」
「そんなキャラちゃうもん。」
「まあそうよな。」
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