1分で読める創作小説2025 『敬老の恋』

水曜

第1話

祖父は病院のベッドに腰掛け、少し照れくさそうに笑った。


「わしが生きているうちに、お前の嫁さんを見てみたいもんじゃなあ」


その言葉に、翔太は胸を突かれた。

「……え、ええっと……」

もちろん、そんな相手はいない。だが祖父の願いを叶えたい一心で、翔太は幼なじみの美咲に土下座同然で頼み込んだ。


「頼む! 一日でいい、俺の彼女になってくれ!」

「なにそれ!? ドラマの見すぎじゃないの?」

「敬老の日限定だから!」


しぶしぶ承諾した美咲と手をつなぎ、祖父の前に現れると――。

祖父は目を細め、皺だらけの顔を綻ばせた。

「……おお、よう似合っとる。こりゃあ、ええ嫁さんになるわい」


その嬉しそうな顔を見て、翔太の心臓は不思議と跳ね上がった。


演技のはずが、自然と手を離せなくなった。

やがて二人は本当に付き合い始め、数年後には結婚した。結婚式の前列で涙ぐむ祖父の姿を、翔太は一生忘れなかった。


――年月は流れた。

翔太はいつしか祖父と同じく白髪になり、今度は自分が孫に囲まれる立場となった。


「わしが生きているうちに、お前の嫁さんを見てみたいもんじゃなあ」


孫に向かって、かつて祖父が言った言葉を口にする。


敬老の日。

孫は幼なじみの女友達を連れてきた。

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