ダイヤ改正

晴れ時々雨

第1話

 一時間に二本あれば上出来だ。一本逃しても、上手く行けば30分程度で次のバスが来る。田舎は道路もすいているから、遅れることもない。ただまぁ時間によっては、何故と思わないでもない時間の開きがある。特に午後1時台は1:01の次が1:58というのが解せないところではあった。

 あたしは都合により、その時間帯のバスの利用頻度が高く、まぁまぁ困っていた。天気のいい日はいいんだけど、そうじゃない日は心底かったるかった。

 こういう事情が2週間続いたあるとき、バス停に着くと珍しく一人先客がいた。普段はゼロ。いつも自分だけしか待合いがいないから気楽だったのに、なんか侵されたような気がしていやだった。でもまったく逆に、ちょっとおもしろいような気もした。

 退屈していたのかもしれない。いつものことに。だからその男の子と、少し引っ込んだ所にある壊れた映画館へしけこんでオイタをすることは、ふざけた遊びの一環だったのだ。

 あたしはバイトでその時間のバスを利用していた。午後1時上がりだからバスの時間まで半端に長く待たなけりゃならない。そこで、たぶんあたしよりいくつか年上のオニーサンを2、3回見かけるようになって、顔見知りになったと思ったら、あれよの間にそうなった。

 あたしは別に性に奔放とかそういうわけじゃなかったし、実はエッチなことに関わるのは初めてだった。興味はあって一通り知ってはいたものの、ぜんぶ想像の中だ。

 一回目、オニーサンのちんちんが入ってきたとき、唐突に「子作り」というワードが浮かんだ。今している行為が快楽と結びつかなかった。脳内にあった想像のセックスとはかけ離れていた。なんかとんでもなくめくるめくものを想像していたけれど、ぎこちなくて予想外にあっけなくて、気持ち悪くて汚くて、痛かった。終わったあと、オニーサンはあたしが脱ぎ捨てた服のシワを伸ばしてくれた。あたしはだるくって、ぼーっとした頭でタバコを吸った。タバコはその日バイト先で拾ったものだった。捨てようと思ってポケットに入れといたやつ、取っといてよかった。それで二人で微妙な距離を保ちながら停留所へ行き、58分のバスに乗ったんだ。

 次から時間をずらすとか考えもしなかった。また居たらどうしようとか気まずいとか、考えないようにしていつも通りの時間にバス停へ向かった。するとオニーサンがいて、あたしたちは映画館へしけこむ。

 回数を重ねると、だんだんセックスの意味がわかってきた。まぁなんでも慣れだね。わからなくても続けることによって何がしかにはなるって。その頃から58分に間に合わない日が増えた。ある日あたしはオニーサンの首に手を回したまま体に電撃を食らった。誰も来ないことをいいことに、なんか叫んだと思う。エロ動画みたいな声。自分でも出せるんだってびっくりした。それとか、オニーサンがたまにあたしの頭をぐいぐい下げて押さえるときがあるんだけど、どうやらフェラチオをしろってことだと察した。本当にこんなシチュあるんだ、とか密かに感動したもんだ。

 まぁまず映画館に入ったオニーサンがあたしのパンツを脱がせてあそこをしつこく舐める、から始めるのは、そんなでもしないとあたしのあそこには到底挿れられないからなんだなって途中で気づいた。

 やることは知ってても、それが気持ちいいことだと理解していなかった。よくわからないタブーに憧れてるだけ。でも何回目かな、不意になんか違うと感じた。

 しがみついてる体を離したくないと思った。突き立てられるソレに、自分から身を落とした。自分のいいところに当たるように導いた。どうしたらオニーサンが気持ちよくなるのか考えて動くのは、あたし自身のためでもあるって気づいた。そうやって、裸じゃなければしないような格好で見上げたオニーサンの顎の先から垂れてくる汗の雫がしょっぱくて、綺麗だったなぁ。規則的に繰り返す弾んだ吐息と、堪え切れない呻き声が聞きたくて、オニーサンの体に巻きついてやった。激しく動き続けると、次第にあそこがビクビクしてきて全身が痺れる。それでもオニーサンはやめない。あたしすら知らない深いところを抉られると、体がばらばらになりそうになる。まるでオニーサンの打つ杭で留められた標本箱の虫みたいだ。標本の虫たちはきっと、ピンを外されたら粉々になる。あたしと同じだ。刺されているから虫でいられる。死にそうにならないと生きているって感じられないの。刺されたら急に目覚めだしたんだから。

 それ以降は、気持ち良すぎて死ぬって思った。いっそ殺してくれって思った。でも、もう無理って思いながらもっと深くはどんなか知りたくて、怖いのに進むのがやめられない。痛みやつらさがその次には快感になると、絶対的に信じてた。最後に来る物凄い感覚を予想しつつ、それを更に打ち破って欲しいと願う。不気味なほど貪欲なバケモノじみた自分をオニーサンだけが受け止めてくれると盲信してた。次はもっと、もっと、って。

 あたしはもうぜんぶ奪ってしまったのかもしれない。タバコもなくなっていたし、オニーサンはアイコス派だ。バス停で喫するのを見た。たった一度、初回限定だけど。

 これが恋愛ではないのは疑問の余地もない。だって誰もそのことについて話していない。ただ、夢中で抱き合っていると名前を呼びたくなることが増えた。今さらだけど、人と関わる順序を間違っていたよね、お互いの名前も歳も知らないんだもの。でもたぶん、あんときあたしに声をかけたオニーサンは勇気を出したんだ。本当は、ついてったあたしもそうだ。もし映画館へ行かなくなったら、あたしはどうすればいいのだろう。当分そんなわけないことは知ってる。オニイサンはあたしの中にちんちんを挿れたい人だし、今はあたしもそうだから。何歳かくらい聞いてもバチはあたらないだろうか。あたしの名前、打ち明けたら怒るだろうか。今度会ったら、こんにちはって言ってみようか。これはルール違反で死刑かもしれない。あれ、なんだかそわそわしてきた。しばらく休みいらないかも。考えすぎてバイト中にパンツが濡れないように気をつける。でも考えるほど守れないから、どのみち悪手。

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