ガムシロップは毒薬なのよ

愛内那由多

ガムシロップは毒薬なんだよ

あなたが注文したブラックコーヒーが届いた。

わたしのローズヒップの香りと相性が悪いなぁ。前は紅茶が好きっていってたのに。

あなたは砂糖もガムシロップも入れないで、コーヒーに口をつける。

たいして味わってもないくせに、無駄に時間をかけるのね。

「僕と別れてくれ」

といわれて、あぁ、そんなんだ……って思ってしまって、でも、なんか納得もしてしまった。それが、わたしは悲しいの。

「そうなのね……」

と、自然に冷たくなってしまったわ。

電話がなったときは、心底イライラしたわ。わたしの前でくらい、スマートフォンの優先度は下げてくれないかしら?

でも、そんなこと気にしないんでしょ?

あなたはわたしを見向きもしないで、浮気相手からの電話に出るんでしょ?あぁ、わたしの方が、『浮気』の相手かしら?

残されたローズヒップとブラックコーヒー。

湯気だけが呑気にたゆたっているのが、うらやましいね。

内心はふつふつ。今のわたしは、沸騰したポット。

あなたは帰ってこないのね。

紅茶が台なしだわ。

わたしはカップに口をつける。のどが鳴るくらいには上品さはなかったわ。

音を立てずに、カップを戻すくらいには、冷静な自覚はあったのだけれど。

女の子にヒマを与える、あなたはなに?ろくなことを考えないから、早く帰ってきて?

コーヒーをぶつける相手がいなわ。

ガムシロップを見て、これが毒薬だったらいいのにって。

そうすれば、あなたは簡単に死ぬのにね?

手にとってみる。

毒薬なら無色透明、無味無臭で、扱いやすいものがいいな。

これは、甘いから失格。

ガムシロップを開けてみた。トロリとした液をブラックコーヒーに入れてみた。

これはそう。

毒薬なの。

私からあなたに最後のプレゼント。

だって、『死がふたりを分かつまで』でしょ?あなたが誓ったのは?

紙で書かなかったのが、良くなかったのかしら?そういえば、役所にも行ってないわね。

わたしはこの場を去ることにしたわ。

だって、もう興味ないんだもの。

テーブルにお金をじゃらんと置いた。紅茶代よりは少し多いのは、嫌がらせのつもりなの。

わたしはカフェを出る。

願わくば、あなたがブラックじゃなくなったコーヒーを飲むことを。

あの甘さで死んでしまうことを願って。

さようなら。

もう会うことも、ないのでしょう。



できれば、生きていないでね?

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ガムシロップは毒薬なのよ 愛内那由多 @gafeg

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