ブラウンビーツとの邂逅(後)
「どーもー、ケンジと」
「タカヒロで」
「「ブラウンビーツや。ヨロシクゥ!」」
「俺ら大阪から来てんねんけど、大阪と言えばやっぱり粉もんやなあ。そういやあこの前誰かが空港で捕まっとったってニュースで見てなあ」
「あかんぞそれ! ちゃうて、大阪で粉もん言うたらたこ焼きにお好み焼きや!」
「せやせや。
「流石や弟よ。大阪人の鑑やな。どこのたこ焼きにしたんや?」
「銀だこ」
「何でや! そこは大阪のええ店で食うてくれや!」
「たこ焼きと焼きそばを買って食うたで!」
「そういう問題ちゃうねん!」
「それにな兄貴、ええ店は知られたくないやん。とっておきは隠しときたいやん」
「気持ちは分かるけど、食べログとかある昨今やで。隠すのが無理や」
「じゃあ俺、とっておきの場所を紹介しようかなー?」
「ええ店教えてくれるんか? せやったら教えて欲しいなあ」
「ええで。そこはめっちゃ居心地がええところでな」
「居心地大事やな。大阪の怖いあんちゃんがうろつくところは嫌やからなあ」
「寝転んでもええで」
「それはお行儀悪いて! いくら居心地が良くても」
「そんで、たこ焼きを自分で焼くことが出来るところなんや」
「ああ、そういうタイプの店なんや!」
「焼きたてをそのまま口の中にポイっとな!」
「お行儀悪いてさっきから! 行きつけかもしれへんけどあかんよ!」
「兄貴。俺、顔利くから」
「嫌な客やなあ! 絶対常連になって欲しくないタイプやんけ!」
「兄貴、やっぱ気になるのはたこ焼きそのものについてやろ?」
「えらい自信やなあ。そらもうそうやで、不味いとこには行きとうないからなー」
「具材は鉄板のたこだけじゃなく、チーズ、いか、ウインナー、ベーコンなどなど。ええブツ揃ってまっせ」
「『ブツ』って言うのやめてくれんか?」
「何でや兄貴?」
「お前が言うと売人っぽいんや!」
「せやろか? あとは味付けも種類多いし、ねぎ、紅ショウガ、鰹節、青のりだけじゃなくて色々とヤクも揃ってまっせ」
「『ヤク』もやめろて! 薬味って言うてくれよー」
「何でや兄貴?」
「さっきと一緒や! お前が言うと売人っぽいんや!」
「せやろか? たこ焼きだけでもこんだけ揃ってるからなあ。お酒も進むでえ」
「せやろなあ。お酒は何かこう、飲み放題とかあったりするん?」
「ビール飲み放題やで!」
「ビール以外は? ハイボールとかレモンサワーとかもええと思うんやけど……」
「アルコールはビールしか出さん!」
「何でたこ焼きは色々出してくれるのにお酒はビールのみなんや?」
「大阪で食い倒れするならビールや!」
「何でそこ柔軟性がないんやろ……。よう分からんけど」
「ほんで、プレートもあるからお好み焼き、鉄板焼きも出来るで!」
「結構幅広くやってんなあ。これは色々と楽しめそうやんけ」
「おうよ! ガンガン焼いていくで!」
「お財布とはちゃんと相談せんとあかんけどな……」
「それに、ここはスイーツも自分で焼けるとこなんやで!」
「それもええなあ。ベビーカステラをその場で焼いて食うの」
「ただ、注意点があるで」
「何やねんそれ?」
「たこ焼き器の掃除はセルフで頼むわー」
「何でそこやらんとあかんのよ! せっかくお店なんやからスイーツ用のたこ焼き器出してくれてもええような気がするけど……」
「あと、パンケーキも焼けるで!」
「大盤振る舞いやなあ。ほんでプレートは」
「セルフで清掃お願いします」
「やっぱしかあー! 代えを出してくれよ!」
「兄貴ー、あんま気遣わせたらようないて」
「店側がもっと気遣ってくれ! 曲がりなりにも客やで」
「何て言うかさ、フランクな関係が心地いいと言うか……」
「フランク過ぎるやろ! 店と客の関係性考えてへんで。そんで弟よ、何て言う店なんや?」
「『店』? ああ、三瀬くん言うて俺のダチの家なんやけど」
「ほんならダチの家でタコパしてただけやんけ! もうええわ、また見てくれよなヨロシクゥ!」
ブラウンビーツがネタを終えて、会場は大きな笑いと拍手に包まれた。
陰ノ者の一期上とはいえ、若手とは思えないくらいどっしりと構えて漫才をしていた。
場数を踏んでいるだけでなく、メンタルの強さも伺える振る舞いだ。
悟やくがっちからすると、ネタの強さよりも安定感の方が印象強かった。
そうして、他のコンビのネタを最後まで見て、寄席が終わった。
悟とくがっちにとっては、最大手である元気笑会の芸人は層が厚いことをつくづく実感させられた。
「やっぱりですけど、元気笑会って面白い方々が揃ってますね」
「それは間違いないね」
「そんな人たちから東西爆笑王座争奪戦の話が舞い込んで来るなんて……」
「それだけ楽しみにしてるなら一安心だね」
悟が来たる東西爆笑王座争奪戦に胸を膨らませる様子を見せているので、坂巻は一安心している。
東軍総大将を彼らシタミデミタシがやるのだから、そうでなくては困るというのもある。
「お腹空きましたね。ごはんどうします?」
「僕らはそこら辺のお店で構わないよ」
くがっちが晩御飯の話を振ってきたので、白井が返事をした。
ブラウンビーツのネタを見ることに集中していたので、特に食べたいものについては考えていなかった。
夕食をどこにしようかと街中を一行が歩いていた、その時だった。
一行の目の前にブラウンビーツの姿があるではないか。
シタミデミタシと陰ノ者の二組が偶然ブラウンビーツと出くわす形となった。
「おうおう、誰かと思えば腹筋BREAKERチャンピオンが揃っとるやんけ」
ブラウンビーツの兄、タカヒロがシタミデミタシと陰ノ者の二組に声をかけて来た。
突然の出来事だったので、シタミデミタシと陰ノ者の二組は固まってしまっている。
「兄貴、今日はあのネタで正解やったなあ」
「ああ、何となくやけど探りが入ると思っとってな」
弟のケンジがタカヒロと話をしていた。
何となくではあっても、シタミデミタシと陰ノ者の探りが入るのを予想していたのはすごい。
そして、陰ノ者の二人に顔を向けて、タカヒロが呟いた。
「なあ、何でお前ら移籍したんや? 謎移籍やでほんま」
「……」
タカヒロの言葉が鋭く陰ノ者の二人に突き刺さる。
陰ノ者の二人は返す言葉を失ってしまっていた。
「こっちのお二人さんは初めましてやなあ。うちらの招待受けてくれて嬉しいで」
ケンジがシタミデミタシの二人に声をかけた。
その態度は挑発的に感じられる。
「何か言うてくれてもええやん。まあええけど。ほんなら、東西爆笑王座争奪戦でバトルやな。ほななー」
ケンジが言い放つと、ブラウンビーツの二人はそのまま街に姿を消していった。
「随分と挑発的でしたね」
「ごめんよ、何も言い返せなくて。かっこ悪かったね」
「気にしないで下さい。お笑いでキッチリ返してやりましょうよ!」
「そうだね」
悟が坂巻を気遣うように声をかけた。
彼らとて、やられっぱなしというわけにはいかない。
シタミデミタシと陰ノ者の二組は東西爆笑王座争奪戦に勝ちに行くことを誓ったのだった。
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