メテイの夢

月寄れい

プロローグ

「折角、ここに戻ってきたのに」


 目の前に広がる風景。

 それは、間違いなく、夢にまで見た景色だった。


 ずっとこれを見たかった。

 何度、それが叶わないかもしれない、過ぎた願いなのかもしれない、と挫けたか。

 何度、その度に立ち上がって、ひたすら前に進んできたか。


 これまでずっと、そうして茨で傷ついた腕を振り、擦り切った靴を引きずってきたのだ。

 今までの努力は、全て、再びこの地に足を踏み入れるため。

 再びこの景色を見るため。


 なのに、


「どうしてこんなに虚しい?」


 ふと、下に目線を落とす。

 改めてみた自分の手は、あの頃とは違い、分厚く、荒々しい。

 あの頃の綺麗だった指は夢のようだ。

 手を強く握りしめる。

 そうだ、あの頃はまだ力も弱かった。

 今ほど強くなかった。

 体も、心も。


 必死に努力した。

 目的を達成するためだったら何でもできた。

 そのためなら、何も惜しまなかった。

 すべてを犠牲にして抗ってきた。


 隣を見る。

 そこには誰もいない。

 いつも、自分の隣にいたはずのあの人はもういない。

 どんな時もそばにいて、ともに支え合ってきたあの人は、もう。

 時に笑いあって、時に泣きあって。

 たくさんの時間を共にしてきたあの人は、自分の隣にはいなかった。


 弱々しく開いた手に、一粒の水滴が落ちる。

 それから、ゆっくり、ぽつぽつと、何粒もの水滴が手に落ちてくる。

 雨が降り始めたか、と上を向くと、空には雲一つなかった。

 憎たらしいほどの快晴だった。

 そこで気づく。


「泣いている?」


 泣くのはもうあの時が最後と決めたはずなのに。

 何故か涙が止まらない。

 目から溢れた雫は、頬をつたり、掌に落ちる。


 それから、長い間、声を殺して泣き続けた。

 いくら泣いても奇跡は起きないとわかっていても。

 只々、過去に消えたあの人のために涙を流した。

 ひと通り泣き終わった後。

 もう一度、空を見上げた。

 何処までも果てしなく続く空を、ただただ見つめ続けた。


 そして思い出す。

 長いようで、一瞬だった今までの出来事を。

 記憶を辿ってく。

 忘れないように噛みしめながら。

 そして、気づけば、濡れていた頬は乾いていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る