完璧な姉妹にはなれない……いやならない!

ポンビン

第1話「妹が欲しかった……けど」



突然だが、この世には百合……いわば女の人同士の恋愛作品があることを知っているだろうか。私は知っている。百合という物はハマった者達を堕落……いやさせるほどの素晴らしい物だ。このジャンルのお陰でどれだけの人が救われたことか……


私が何故……こんな話をしているか。それを今説明しようと思う。


私────守山奏もりやま そうは百合が好きだ。


ただその中でも好きな物があり、それが姉妹百合というものだ。姉妹百合というものは簡単に言うと姉妹同士でまあ百合百合ラブラブするというものだと私は思っている。


ただ、こんな百合好きになる私だが、あの時は姉妹百合疎か百合すらも知らなかった。


そんな私の……


────百合を知り、姉妹百合を好きになった今の私になるまでの私の物語をここに書き記そうと思う────













玄関のドアを開け、家に入る。この家は死んだ父が残した遺産みたいなものだ。かなりの頑固親父だったなあ……と家に入る度に思う。親不孝な私だったがそんな私でも父は不器用ながらに愛してくれたものだ。


「ただいまー」

いつもお母さんがいるリビングに向けて言ったつもりだったのだが一向に返事が返ってこない。

買い物でも行ってるのかなとも思ったが。お母さんが愛用している靴は玄関に残ったままだった。怪訝に思いながらも靴を脱ぎリビングへ向かう……


「……お母さん、と……あと誰?」


何故かリビングにはお母さん、そしてお母さんぐらいの歳をしてそうな男の人……そして────ツヤツヤの黒髪をしたショートボブの女の子がいた。


「あら、おかえり」


「あー……一応ただいまって言ったんだけど」


「ごめんねぇこの人たちと話が弾んで聞こえなかったみたいなの」


中々弾んでそうな雰囲気には見えなかったが……まあいい


「そうなんだ……その人達は?」


「ああ、俺は志希光世しき こうせいだそこのアンタの母さんと結婚することになった、そこの少女は俺の連れ子だ……ほら挨拶しろ」


「……こんにちは」


「……こんにちは?」


挨拶しろと言われたら相手が知らない人だったら挨拶と共に自己紹介するものでは無いのだろうか。というか結婚って……?

とりあえず名前を聞こう。


「あの……名前は?」


「志希です」


ん?


苗字はこの子のお父さんから知ったから下の名前を聞いたつもりだったんだけど……伝わってなかったのかな


「いや、あの……下の名前は?」


「……あなたが知る必要はありません」


「必要大ありだよ!?」


「なんですか急に大きい声出して……うるさいですよ」


いやそれは悪かったけど……


「というか人に名前を聞くなら自分から名乗ってくれませんか?」


あーまあ、うんそれもそうか……と思い私は


「私は守山奏もりやま そうだよ……そっちの名前は?」



……名前を言った


これで名前を話してくれるだろうとお店でハンバーグが来るまでウキウキして待ってる子供のようにしている私はこう思った


なんで名前がわかるっていうだけでこんなワクワクしてるのだろうか。


なんて私が私に困惑していると────




「そうですか」


「え?そっちの名前教えてくれないの?」


「教えるとは言ってません」


はあ!?そんな屁理屈…………もういいか。この子教えてくれなさそうだしなぁ。と思ったが気づいてしまった、この場には志希が2人いるという問題がある。仕方ないから。新しいお父さんとなる人の名前の下を呼ぶか……なんて考え、最初から気になっていたことを光世さんに聞く


「あの、そういえば光世さん……うちの母と結婚したって本当なんですか?」


「ああ、そうだ。まあ、あとそうだな。そう固くなるな敬語も外していい……これから家族になるんだからな」


「わ、わかりまし……わかった」


厳格な見た目だから性格も厳しいと思っていたが、見た目に反して優しいようだ。


お母さんが「実はね」といい私は顔を横に傾かせ「どうしたの?」という意味を表した。


「奏、お母さん達実は新婚旅行しなきゃ行けないのよ」


「うん?そうなんだ、楽しんできてね」


「それでなんだけどその新婚旅行……光世さんの出張先に合わせて行くの」


うん……?話の方向性が見えないな。

出張先に合わせて行くからなんだというのだ


「それでなんだけど、その出張1ヶ月かかるのよ……だから貴方達姉妹だけでこの家に居てもらうんだけど大丈夫かしら?」


「え?!」


私が驚くよりも早く先ほどからずっと黙っていた志希が大きな声を出して驚いた。


それに合わせて、私は新しく親になった光世さんとお母さんに聞いた


「どういうことなのそれ……2人とも1ヶ月この家に帰って来ないの……?」


「ああ、そうだ」


「ごめんだけどその子も奏も家事できるみたいだし……あとお金は送るからお金の心配は無いわよ」


お金って……お金の心配はしてたけど。だけど姉妹や兄妹には憧れがあったから……これからの生活が楽しみだな、なんて思っていると母がこう言った




「奏……この子はあなたよりも生まれた日が遅いからあなたが面倒を見るのよ」


生まれた日が遅い……ってことはこの子が私の妹ってことか。


「え?こんな奴が私の姉なんですか?」


泣いた。

こんな奴って……そんな姉に見えないの?私

たしかにこの子の方が大人びている見た目と私も分かっているが……でも大人びている見た目に反して言動は子供っぽいな……


「おい、そんなこと言っちゃダメだろう……」


おお、言ったれお父さん!!


「だって本当のこと言ったら、奏が傷ついてしまうだろう?」


本当のこと……?逆にそれに傷ついたんですが。そんなに姉に見えないように容姿してる?たしかに志希よりも身長は低いと思うけど。


「まあこの話は置いといて、今から新婚旅行行くから」


……今から?


「ち、ちょっと待ってよ今からなの?」


「あら、言ってなかった?……そうよ、後ちょっとで出ていかないと飛行機に乗り遅れちゃうから急がないとね」


ってことは今日から志希と2人っきりってこと?


「そ、そんな……そんな早くに出ていってしまうのですか!私はこんな姉に見えないやつと2人きりで1ヶ月この家に?!」


私も……志希みたいなやつと一緒に暮らしたくないよ




光世さんと母に縋るような視線を送ったが、ダメだったのか────


「まあいい……帰ってくるまでには仲良くなっておくんだぞ」




────こう言われてしまって、その……光世さんの言葉で現実から一気に突き放されたような気がした────










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