望霊

第1話




今まで体験した怖いこと、ですか。



幽霊が出てきたりとか、殺人事件に巻き込まれそうだったとか

そういうのですよね、いわゆる怪談ってやつ。


心霊系とか人怖系とか色々分類されてますよね確か。

オカルトとかあんま詳しくないですけどそれぐらいは知ってますよ。



えーと。

あ、思い出しました。


これね、僕が呪いにかかっちゃった話なんですけど。

え、怖そう?

まぁ、怖いというか不思議な話かもしれないですね。



そういうのならありますよ、中学生の時だったかな。





僕、出身が香川県でして。

僕が住んでたとこっていうのが

山に囲まれた自然が豊かな場所で、田んぼとか農家とかいっぱい家の周りにあって、トラクターとかが普通に畦道走ってるみたいな。

家とかも一軒一軒の敷地は広いから庭も駐車場もついてるけど、

その分家同士の距離もちょっと遠くて。

最寄りのコンビニまで車で10分かかるような。

出かけるってなったら車必須のような地域ですよ。

高松市まで行くのに車で1時間かかるんですから。


まぁ要するに、香川の中でも、かなりの田舎の方出身ってことです。

自分で言うのもあれですけどね。




学校通うのとかもだいたい地域の子たちはバスかな。

あとは自転車か徒歩。

電車使ってる人なんてあんまりいません。

そもそも運行してる本数が少ないですしね。

僕はチャリ通でした。


学校も全校生徒合わせて100人いるかいないかってぐらいです。





あれはたしか中学2年生の夏頃だったと思います。


僕はその頃部活に入ってまして、

学校の授業が終わったら夕方まで仲間と部活に打ち込んでヘトヘトになって帰るような生活を送ってました。


夏休み前、

期末試験の最終日で、部活もその日はなしで

全てから解放されてあとは終業式を待つだけ、みたいな日あるじゃないですか。

試験終わったらもうその日は下校みたいな。


で、午前中に試験が終わって生徒はそのあともう帰るだけになったんです。



そしたら部活の仲間たちで

せっかくこんな早い時間に学校終わったんだからどっか行こうぜってなったんですよ。

そりゃそうなりますよね、遊びたい盛りの体力有り余る中2ですから。

でもどこ行こうかってなった時に、これだけ田舎だと周りに何もなさすぎてかなり場所決めが難しいんです。



そこで仲間の一人が言い出したんですよ。

ちょっと自転車走らした同じ市内に、有名な心霊スポットがあるって。


なんか色んなサイトとかで香川最恐って言われてるらしくて

具体的な場所は伏せますけど、写真とかみたらかなり怖そうな場所なんです。

昔その辺に住んでた一族が全員自殺しちゃって、

その呪いで上半身がない霊が現れるとかいう曰くもあったりして。



昼間だけど、これだけ雰囲気あったら楽しめそうだなってなって

適当に昼ごはん食べてから、早速3,4人ぐらいで自転車飛ばして行くことになりました。




人里離れた、は言いすぎですけど周りにも民家が何軒かしかないような

山間部の廃神社らしくて、

30分ぐらいチャリ走らして山の手前まで来たら、

そこからは徒歩で山に入るしかないんです。


それにしても昼間だったからよかったってのはあるんですけど、

まぁかなり木々が鬱蒼としてる山でしてね。

街灯とかもまったくないんですよ。

こんなとこ夜に来たら発狂するレベルに暗いんだろうなとか話しながら進んでいくうちに、どんどん民家から遠ざかっていくんです。

舗装されていない道の脇に生い茂ってる草むらの中に

イノシシ用の罠とか有刺鉄線が見えてて、

その時に余計に思っちゃったんですけど。


これ、もし行った先で助け呼んでも誰も来ないなって。

あの感覚ちょっと怖かったですね。



そんなこんなで山道を登ってたら、周囲が森から竹林に変わっていきまして。

その竹林の中に廃神社がありました。


暗かったら見逃しちゃうような細い脇道が竹林の奥に続いてました。

そこ進んでみたら、お稲荷さんが道の両脇に建ってて、

あ、ここだって確信しました。


全員初めて心霊スポット見つけたからテンションあがっちゃって

ワイワイ騒ぎながら探索し始めましたよ。








まぁ実はですね、ちょっと冷めるかもしれないですけど

結論から言うと何も起きなかったんですよ。



神社敷地内は色々面白そうなとこあったんです。

めちゃくちゃ荒らされた拝殿の廃墟とかボロボロの鳥居とか。


でもなんかよくあるような

心霊写真が撮れたとか、曰くであった上半身の霊とか何にも出なくて。



最初こそ盛り上がってたんですけど、

探索してるうちにただの廃墟見学みたいになっちゃって、

皆んな拍子抜けした感じで全部回り終わっちゃったんですよ。



ちょっとずつ日も暮れて夕方になってきてたし、

何にも起きなかったな、なんて言いながら山から下りて、

みんな散り散りに帰りました。





何も起きなかったならなんでこの話したんだって思うでしょ。


変なことが起きたのはこの後なんですけどね。




そのあと普通に家帰るじゃないですか。

夕方の16時ぐらいかな。



友達と別れた後、一人でチャリ漕いで帰るんですけどね。

家の近くまで来たら遠くから見えるわけですよ、自分の家が。

夕方だから家も明かりが点いてて、

あぁお母さんもういるんだなって思ったんです。


でもうちの両親共働きだから、

普段だったらまだこの時間は帰ってきてないはずだったんですよ。


だから

あれ、今日は仕事早く終わったのかなって思って

特になんの疑問も抱かずに駐車場に自転車停めて

家の玄関開けて

「ただいまー」って言ったんです。



「おかえりー」

っていつも通りのお母さんの声が

キッチンの方から返ってきて。



リビング入るとお母さんがいるんですよね。

明るい照明の下で、いつものエプロン腰に巻いて

こっちに背中向けてキッチンでなんか料理してました。




「学校どうだった?」



ってお母さんが背中向けたまま聞いてきて。



「あー学校、ていうか今日は期末試験しかなかったし、特になんもないよ。

あれ、朝出かける前に言わなかったっけ。」


声のキーが普段より高く感じたんですよ。

なんかわかんないけど機嫌いいのかなって思って。


「あ、期末試験。そうだったね。」


「今日の夕飯なに?」


「今日はハンバーグでも作ろうかと思ってるよ」



トントントントンってずっとキッチンの方向いてなんか切ってるんですよね。

コンロに鍋も置かれてて、コトコトなにかを煮込んでて。





何がって言われると難しいんですけど。

ちょっと違和感があって。



僕が帰ってきてから一回も振り向かないんですよ、こっちを。


だからなんか怒ってるのかなって思ったんですけど、声色的にはそうでもないみたいだし。




「早く着替えておいでねぇ」





背向けたままそう言うんですよ。



とりあえず自分の部屋行って私服に着替えて、

もう一回リビング戻ったんです。



まだこっち振り向かずに料理してるんですよね。



「お母さん、今日仕事は?」


「今日ね、ちょっといつもより早く終わったの」



僕、なんかこの普段より異様に高い声が気になって。

演技してるみたいな声なんですよ。



で、僕、そこで思ったんです。


これ、もしかして職場でメンタル的に嫌なことがあったけど

無理やり取り繕って明るく喋ろうとしてんのかなって、ちょっと心配になっちゃいまして。




「そうなんだ、早いね。えっと、今4時か。

4時ごろに家に居るってことはもう3時ぐらいには仕事終わってたってこと?」



もしかして早く職場から帰らされたりとか、

そういうのあったのかなって

遠回しに聞こうとしたんですけど。





「そう、4時ごろに家に居るってことはもう3時ぐらいには仕事終わってたってことね」



って返ってきて。



明らかに会話として変じゃないですか、その返しって。

その辺から、違和感がどんどん募っていくんですよ。



今日一日でそんなことになるとは思えないですけど、これお母さん、精神的に危ない状況なのかもってその時は思ってたんですよね。


相も変わらず後ろ姿のまま、

一回もこっち振り向く素振りも見せずに、ずっと料理し続けてるんです。



様子を窺うために、何か別の質問はないかと考えてたら。





「学校どうだった?」





って言われて。



その時、ちょっと感じましたよ。

あれ、これ大丈夫じゃないかもって。





「え、学校?いやだから、今日は期末試験だけだって」


「あぁ、そうね。期末試験ね。期末試験どうだった?」





正直、かなり気持ち悪かったですよ。

でもなんとか応えようとして。


「あー期末試験ね、まぁまぁできたと思うよ。今回は赤点はないと思う」


って言ったら





「あら、そう。今日はハンバーグでも作ろうかと思ってるよ」




なんて言えばいいんでしょうね、あの気持ち悪さ。

後ろ姿しか見えてないんですけど、お母さんの見た目自体に何にもおかしいところはないんですよ。

いつものお母さんの服とエプロンだし、料理するとき毎回後ろに括る髪型も背の高さも、

もちろん紛れもなくお母さんなんです。

家もいつも通りだし、作ってる料理もいたって普通の良い匂いがしてるんです。


でも、なんかずーっと変な感覚なんです。

会話の受け答えはもちろん変なんですけど、それ以上の。





これ、お母さん本格的に参っちゃってるのかも。


って、まだそう信じたかったんでそう思ってたんですけど。



お母さんが言うんですよ。








「早く着替えておいでねぇ」








あ、これヤバいってなって。


もうこれは理性とかじゃないですね、直感というか本能というか。


その時にこれ、精神的にどうとかじゃなくて、もっと別の、なんか猛烈な忌避感というか嫌悪感、みたいなのを覚えたんですよ。





「あのさ、お母さん大丈夫?なんか調子悪い?」








今起きてることにすでに戦慄しちゃってたんですけど

なんとか普通に接しようと思って、絞り出したんです。





でも返事がなくて。




ただただお母さんの後ろ姿を眺めることしかできないでいたら、

持ってたスマホに突然、メッセージが来たんですよ。


こんなときになんだろうと思って画面見たら。












お母さん

「今日の夕飯はパスタにしようと思ってるよ。

○○、今日期末試験だけで帰り早いでしょ。

お母さんもうすぐ家着くから、

もし先に帰ってたら、すぐ作れるようにお鍋にお湯沸かしといてほしい。」












見た瞬間、吐きそうでした、正直。

喉の部分からヒュッて音がして急に呼吸が荒くなっちゃって。



見間違いかと思ったんですけど、

紛れもなく送り主はお母さんなんですよね。








じゃあ、今、目の前にいるのって。








そしたら、言うんですよ。

さっきと同じ声で、背中向けたまま。





目の前のソレが。











「がっこうどうだった?」











それ聞いた瞬間、走って逃げ出しそうでした。



でもそこで、刺激しちゃいけないって思ったんです。


声が震えてるのをバレないように、必死に落ち着いた声を装って





「あ、ごめん、学校に忘れ物しちゃったの思い出したからさ、ちょっと取ってくるわ」





って言って

走らないように玄関行って外出ました。





外出るときにもね、玄関のドアをガチャって開けたら








「おかえりー」








ってリビングの方からきこえました。





家から飛び出して振り返ると、

家の全部の明かりが真っ暗になってました。


最初から誰もいなかったみたいに。




そのあとに道の向こうから買い物袋下げたお母さんが見えた時は

本当、泣きそうでしたよ。





僕は何を見たんでしょうね。





いやぁ、心霊スポットって行くもんじゃないですね。














これが、僕が心霊スポットに軽はずみに行って呪われちゃった話です。


どうですか。











え?


そりゃあ幽霊に決まってるでしょう、こんなの。

心霊スポット行ったから呪われちゃったんですよ。



いやまぁたしかに何もなかったですよ、心霊スポットではね。

罰当たりなこととかもしてないし。



でも、こういう変なことが実際起きたわけですからね、

知らないうちに呪われちゃってたんでしょう。

連れて来たっていうんでしょ、オカルトだとこういうの。





はい?

曰くとの因果関係がない?

曰くっていうのはあの上半身がない霊とか、自殺した一族とかとの関係性ってことですか。


知りませんよ、そんなの。





いやでも、関係ないわけないじゃないですか。

現にあの心霊スポットに行った後にそうなってるんですから。


呪いですよ、呪い。


だから家であんな変なことが起きたんでしょ。



僕オカルト詳しくないからわかんないけど、

ああいうタイプの呪いとかお化けってあるんじゃないですか?



まぁ確かにね、一緒に行った他の友達に聞いても

あの後何も起きなかったとは言ってましたけど。





何が言いたいんですか。





僕らは心霊スポットに行った、そこで僕が呪われてしまった、

それで家に帰ったら怪現象に見舞われた、

っていうそういう話ですよ。





なんですか、別モノって。








だって、じゃあ。


もしもですよ、もしも。


仮の話で。



僕らが心霊スポットに行ったことと

僕が家で見たソレがまったく無関係なんだとしたら、

なんなんですか。





僕が呪われたわけでもなんでもないんだったら、



あれは何だったんですか、僕が見たモノは。






僕の家にいたアレはなんだったんですか。





心霊スポットとか呪いとか関係ないなら、

僕の家にいたあの存在はどこから来た何だったっていうんですか。












そんなことあっていいわけないでしょ。















だから、絶対に、呪われてしまってたんですよ、僕は。




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望霊 @GO_GOH

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