日常の破壊者?否、日常の守護者?

京極燿

日常

とある暑い夏の日のこと。いつもと同じように、僕は学校へ行き、授業を受けていた。先生の呪文にも聞こえる英語が、教室中を駆け巡る。意味が分からないので、廊下を見ていると、一人の男が教室に押し入ってきた。黒ずくめの、見るからに怪しい男だ。当然の如く、教室は騒然。騒がしくしている生徒たちと、打って変わって落ち着いている先生。僕は騒がしくしている生徒たちの間を潜り抜け、黒ずくめの男の前に立つ。

「どうした?ガキ…これが見えないのか?」

男は拳銃を僕に突きつける。止めろと言いたげな先生に僕はこう言った。

「先生、僕の命でこの場が収まるなら…もしそうなら僕は喜んでこの命を差し出します。だから、先生。絶対に止めてくださいね?」

先生の方をちらりと見る。大の大人が半泣きになりながら、頷いている。

「全く、どいつもこいつも、度胸がないなぁ?ねぇ、お前さ僕のこと撃てるの?撃てるなら、撃ってみろよ!」

僕は自分のこめかみに男の持っている拳銃を当てる。

「な!!お前、正気か!?俺がこれを撃ったら、お前、死ぬぞ?」

脅しているつもりなのかもしれないが、毎日脅しを受けている僕からしたら日常のヒトコマに過ぎない。

「お前も相手が悪かったな。僕は毎日脅されてんだ。だから、こんなの…脅しにもなりゃしねぇ。悪いな。」

そう言って、呆気に取られている男の手首をぐりっと捻り、背負い投げ、その後に男の上に跨る。教室からは拍手が舞い上がった。

「悪かったな、おっさん。ほら、立てよ。手を貸すからさ。」

僕は男に手を差し伸べる。

「お、おう。ありがとな。」

この光景に生徒も先生も意味不明のご様子。

「ほら、おっさん。説明!」

怒鳴り口調でそう言う。

「あ、あぁ。せーの!」

僕と男は息を合わせて、こう言った。

「ドッキリ、大成功!!」

当然、教室からは「は?」の声が止まない。

「僕から説明させてもらうね。あぁ、でもその前に、衣装取っていいよ?「校長先生」」

「おいしょっと…。いやぁ、悪かったね。」

黒ずくめの衣装の中から校長先生が現れた。校長先生は続けてこう言った。

「いやぁ、実はね?この生徒が、私にテロリスト役をしてくれと頼んできたんだよ。だから、何でだい?って話を聞いたら、いつもの避難訓練じゃつまらないから、効果がないかもって言われてね。それで私自らテロリスト役をしてみた、という訳だ。騙すようなことをして、済まなかったね。でも、いつもの避難訓練で効果があるようで良かったよ。またこれをやるとなると、私も精神を病んでしまうよ…。」

「あ、あぁ…ごめん、校長先生。でもこれで納得していつもの避難訓練が出来るんじゃないかな?先生も、生徒も、ね?」

「あ、あぁ。そうだね。とりあえず私は仕事に戻るよ。君達も、いつこうなるか分からないから今のうちに、学業に取り組むんだよ?それじゃぁね。」

「ありがとうございました、先生。」

生徒も先生も皆、何もなくて良かったという顔をしている。僕もみんなにバレないようにひっそりと安堵した。だってあの人は…。

(校長先生、じゃないからね。あの人は僕の彼氏だから。あっちは大学生、こっちは高校生、だけどね。だから不審者なのは合ってるんだよなぁ…。)

僕は一人ほくそ笑んだ。

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