第17話 無茶する理由
戦いから数日後。
ミラナ村にはようやく静けさが戻っていた。
倒壊した柵は修繕され、畑の見回りも再開され、子どもたちの笑い声が戻ってきた。
血と煙の匂いがまだ薄く残る中でも、人々は確かに日常を取り戻そうとしていた。
その数日の間、俺とミリアも村に留まり、手当てを受けていた。
俺は胸と腕の打撲で剣を握るのも辛く、ミリアも体の切り傷と疲労でまともに動けなかった。
けれど、村人たちの献身的な看病と温かい言葉に救われた。
「貴方がたおかげで……私たちはまだ、ここで暮らしていけます。本当にありがとうございました」
村長が震える声で頭を下げる。皺だらけの手の重みが、言葉以上に感謝を伝えていた。
「また何かあったら、すぐ駆けつけてくれよ!」
ガランは腕に包帯を巻いたまま、豪快に笑った。
口調は荒いのに、その目尻には隠しきれない涙が浮かんでいる。
「ユウタ兄ちゃん、ミリア姉ちゃん!」
駆け寄った子どもたちが抱きついてくる。
小さな腕のぬくもりに、胸がぎゅっと締め付けられた。
守れたのだ。この命と、この日常を。
数日間の休養を経て、俺とミリアは村を出立することになった。
目指すのは最初に訪れた街、ガルド。護衛の報酬もまだ受け取っていない。
村人たちの見送りを背に、俺たちは並んで街道を歩き出す。
◆
──あの怪物を、本当に倒せたんだ。
隣を歩くユウタさんの背中を見て、ようやく実感が湧いてくる。
「……いい村だったな」
不意にユウタさんが口を開いた。
「はい。みなさん優しくて……。きっと、すぐに立ち直れます」
私も同じ気持ちだった。傷ついたけれど、あの村には強さがある。だからこそ守り抜けたのだと思う。
「お前がいたから勝てた」
その言葉が頭の中で何度も繰り返され、むずがゆくなる。
ふいに立ち止まった彼が、私の頭に手を置いた。
大きくて、温かくて、優しい手。
「もう無茶するなよ」
短い言葉が胸に突き刺さり、頬が熱を帯びた。
「大丈夫です! たまにしかしません!!」
「たまにするのかよ……」
苦笑まじりの呟きに、胸の奥がじんわりと温かくなる。
妙に落ち着かない。けれど、不思議と心地よかった。
……これは何だろう?
今まで抱いたことのない感情が、静かに胸に広がっていく。
戸惑いと同時に、どうしようもなく嬉しい。
そんな自分に気づいて、さらに少し顔が熱くなる。
ユウタさんに悟られないよう、慌てて前を向いた。
昇る朝日が二人の影を長く伸ばす。
その光の中を歩く背中を見つめながら、私は小さく唇を噛んだ。
──この気持ちは、いったい何なのだろう。
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