蝉時雨の中に
桜井真彩
第1話
「言葉にしないと不安です」
それが琴線に触れたのか、我慢の限界だったのかわからないけど。
「俺は人間だ」
そう言い残して連絡が取れなくなった、暑い夏の日。
態度で示すとは言ってくれたけど、肝心なことは何も言葉で言ってはくれなくて。
不安だけが募っていく。
全部を態度で分かれというのは傲慢だと思う。
1から10まですべてを言葉にして欲しいといってないし、頼んでもいない。
不安なときにそばにいるよって言って欲しいというのはわがままな願いだったのだろうか?
今となってはわからない。
あたしが悪かったとして、なにが悪かったのか、何が原因だったのかわからないまま、蝉時雨の中に置いてけぼり。
結局、あなたも他の人と同じなんだね。
最初は耳障りのいい言葉をくれるけど、面倒くさくなると何も言わずに去っていく。
最初からあたしは重い人間で、面倒くさい性格だって言っているのにもかかわらず、あたしは最初から一貫して同じことを伝えているのにもかかわらず。
面倒くさくなって、嫌になって捨てて逃げるぐらいなら、最初から優しい言葉なんてかけないでって言ったのに。
中途半端に情けをかけられるぐらいなら、近づかないでってあれほど言ったのに。
やっぱり言葉で伝えるだけもダメなんだな…って思った。
言葉で伝えきれない想いは態度で示さないと信憑性がないのかもしれない。
一人でいることは苦痛ではない。
どこにだって一人で行けるし、ご飯も一人のほうが気楽だ。
誰かといれば楽しいけど少し疲れてしまう。
元に戻っただけと自分に言い聞かせてみても、心にぽっかりと空いた穴がどんどんと大きくなる。
ズキズキと痛む心に気づかないふりをして、窓の外に目をやると空はすっかり秋めいている。
一つの季節が終わりを迎え、ゆっくりと次の季節へと移っていく。
一つの人間関係が終わったぐらいで人間、簡単に死にはしないのだ。
誰かに嫌われても好かれても、同じく時間は流れて季節は移り変わっていく。
溜息をそっと窓の外へ逃がす。
だいぶ涼しくなったとはいえ、まだ暑い風が吹き込んでくる。
「やーるーぞー!!」
気合を入れ直す。
窓をそっと閉めてエアコンのリモコンに手を伸ばした。
気合を入れても暑いのは苦手なのだ。
蝉時雨の中に 桜井真彩 @minimaa
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