第26話 溶けていく氷みたいな謎たちの血色

 視線が声の方へ集まる。


「そう。こいつが殺したの」


 視線の先、そこにはミヅチ。

 忘れていた。

 こいつは剣豪だ。


「なぜ?」

「話を聞かれたから」


「そうです。わたくしがハイネスに話しかけている所を、少年に目撃されました。『キンコウセン』に属しているふりをしている手前、誰に報告されても不利な状況になりかねないと判断し、わたくしめがその少年を殺しました」 

   

 ルートヴィーズ、カレオス=コクーテが口元を上げる。

「そういうこと」


「生まれた時からコクーテってことは、お前、コクーテの跡継ぎっ・・・」

「そう。そうらしいね。兄が死んでからは」


 ロイドはしばし、呆然とする。


「顔も名前も一切、非公開の・・・」

「そう」


 アデレートとロイドの声が重なる。

「「なぜここにっ・・?」」


 さも面白げに目を細める、彼。

「リーダーが捨て駒のような真似はしないってみんなが思い込んでる、みたいなこと、前に言ってたでしょ?」


 彼はロイドを見る。

 たしかに。

 そんなことを言っていた。


「・・・いつからだ?いつからの計画だ?」

「秘密」

「この騒ぎも計画内、ってことか?」

「知らない」

「秘密じゃなく?」

「どうだろうね?」

「コクーテが暴れさせてるんだな?」

「俺のあずかり知らぬこと」

「なぜ?コクーテの跡継ぎなんだろっ?」


 彼はミヅチを見る。

「どうなってるの?」

「言えません」

「そう。言えない、だって。分かった?」


「私のせいかもしれないの・・・」

 リクに視線が集まる。

「私が襲われたから・・・」


「・・・どういうことだ?」

 カレオスも興味深げにリクを見つめる。

「どういうこと?」

「生前、私の母はあるギャングの愛人だったの・・・」

「ああ、そういうこと・・・」

 バン、と両開きの入り口が開く。

「ロイドさんっ。大変ッスっ」

 ロイドは振り向く。

「なぜここがっ?」

「常にあとをつけてるやつからの情報ッスよっ」

「どうしたっ?」

「この女、この女、暗殺者ですよっ。離れてくださいっ」

 ロイドの部下が銃をリクに向ける。

「やめろっ・・・どういうことだ?リク?」


 リクは数秒、沈黙。

「・・・ごめんなさい・・・」


「なぜあやまるっ?」

「本当に偶然だったの。でも、父は許してくれなかった・・・」

「まさか・・・どこの組だっ?」

「言えない。愛人の子供よ?迷惑はかけられないっ・・・」

「本当に暗殺をっ・・・?」

 リクは押し黙る。

「ごめんなさい・・・あなたの暗殺を命令されていたの・・・」

「いつっ?」

「言えない・・・」


 リクはスカートの腰の部分から小型銃を取り出す。

 自分のこめかみに向ける。


「やってはいけないことをしたの・・・あなたを助けてしまった・・・」

「何のことだ」

「セリーザ・・・」

「まさかっ・・・あの女賞金稼ぎっ?」

「そう。暗殺する予定だったの・・・あの日・・・あなたを」

「・・・リク・・・」

「暗殺者の、掟・・・」

 銃の安全ピンが抜かれる。

「まてっ」


「愛してるわ。ロイド・・・」


 銃声とほぼ同時、リクは微笑と涙を浮かべたまま、床に倒れた。

「リクッッ」

「リクッ」

 体をゆさぶるロイドと、叫ぶアデレート。

「リクッ・・・リクッ・・・」

「リク・・・」

 ロイドは銃を取り出した。

 うしろにいる部下の頭を無表情に撃ちぬく。


「お前が言わなければよかったんだ・・・」


 悲鳴をあげる暇もなく、部下が倒れる。

 ロイドは自分のこめかみに銃を向けた。


「・・・アディ、迷惑かけてごめん・・・」

「やめろロイドっ。迷惑って何のことだっ?おい、やめろっ」

「あの黒ヒゲ、ポリスだって名乗ったんだ・・・」

「・・・なに?」

「ゆすられたんだ。ここに泊まった夜中。だからもしもの時、自害用に持っていた毒をあいつに盛ったんだよ・・・」

「・・・まさか殺したのかっ?」

「そうだよ。死んだのを確認した・・・でも、胸を刺してなんかいないっ・・・」

「じゃあ、誰が・・・」


 爆笑。

 手を叩いて笑い出したヤツがいる。

「俺だよっ、俺っ」


 ダグラスだった。


「そうっ、俺っ。俺だよ、俺っ」

 ダグラスはとても楽しげに階段を降りてくる。

「ミジュルクとか言う吟遊詩人を疑わせたのも俺っ、そう、俺なの~。あはははははっ」


 アデレートは目を見開いた。

 ミヅチが一瞬、と呼べる間に剣を抜き、ダグラスを斬った。

 ミジュルクの言葉を思い出す。

 自分を襲った犯人は俺の側にいる、みたいなことを、彼は言っていた。

 ミヅチが感情をあらわに言う。


「ハイネスに近づくな」


 ドンッ。

 銃声。

 リクにかぶさるように、ロイドが倒れた。

 少し、目を離している間のことだった。


 自殺・・・

 アデレートは、その場から動けなくなる。


「・・・ロイド・・・」

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