第24話 運命の糸は紡がれるのか切られるか


 吐息がうるさい。

 必死で走っているはずなのに、半分も進んでいる気がしない。

 アデレートは薄れゆく意識を感じていた。

 もう、ダメかもしれない・・・。


「うっ・・・」


 建物の壁に手を突いた。

 うずくまる。

 その場から動けなくなる。

 ・・・ルートヴィーズ・・・

 ルー。

 ずるずると壁にもたれながら、アデレートは気を失った。


「おいっ」


 そこに人影。

 地面と壁に映った影は、少しななめを描いている。

 ゆさぶられたような気がしたが、アデレートは目を開けることができなかった・・・。   


 * * *


 銃声。

 火の手。

 それはリクの借りている家からだった。

 近所が騒ぎ出す。

 いくつもの銃声が交わる。


 * * *


 アデレートはうめきながら目を開ける。

 部屋は薄暗い。

 どうやらベッドの上のようだ。

 どこだ?ここは?

「ああ、目ぇさめたのか・・・」

 誰かの顔がのぞく。

 数秒、その印象的な瞳を見つめる。

「君は、っ・・・」

「動かない方がいいよ」

 頭痛。

 アデレートは顔をしかめる。

 横に座る少年。

「こんな時間に出歩くからだよ」

「・・・どうして助けた?」

「おぶって」

「違う」

「こんな時間に出歩いてたから」

「ああ、そう・・・」

 アデレートは起き上がろうとする。

「動かない方がいいってば」

 大きなめまい。

「行かなきゃいけないんだ・・・」

「・・・わかった」

 少年は肩をかついでアデレートを起こす。

「ああ、服、血で汚れてたから捨てたよ」

「そりゃどうも・・・」

「貸すって」

 少年は準備していたのか、イスの上に置いてあった服を投げてよこした。

「なぜ助けてくれた?」

「俺のこと覚えてる?」

「・・・もしかして・・・恩返し?」

「まぁ、そんなとこ・・・」

「じゃああの時の・・・そうか・・・」

 藤色の瞳をした少年は微笑んだ。

「そういうこと」


 * * *


「ああ・・・この日をどんなに待ちわびたことか・・・」とミヅチがぼやく。


 * * *


 ―・・・街は混乱の中にある。

 リクの家の出火から、近所の家々が炎上。

 消防隊や警察軍が動き出してきた。

 そして《キンコウセン》と《レイガフ》の抗争。

 それに便乗?

 乗じた他のギャング達が、戦闘に加わることになった。

 街は混乱の中にある。

 銃声ばかりが聞こえている。


 * * *

 

 頭にバンダナを巻いているアデレート。

 服もかえたが、それが余計に《レイガフ》を思わせる格好だ。

 頭痛も続いているが、アデレートは自宅を目指して走り続けた。


 * * *


 リクとロイドは店が閉まっていることに気づき、アデレートの自宅へ向かう。


 * * *


 頭上に音もなくクジラ。

 いや、巨大飛行船。

 アデレートは気配を感じ取り、静かに空を泳ぐ真っ白な巨大船を仰ぐ。

「なんなんだ・・・今日は・・・」

 航空権の問題で、この街の上は飛行禁止のはずだ。

 何かがおかしい。

 あのマークは・・・あの船は《コクーテ》総本部の持ち物だ。 


 * * *

 

 馬車が闊歩している。

 運転手は『ヴィーキツ』の前で馬車を止めた。

 真っ黒な、銀縁のついたシックでエレガントな馬車だった。


 * * *


「ハイネス・・・ありがたや・・・」

 ミヅチは渡された酒を飲んだ。


 マロイはにやつきながら、『プライグ五世』を飲む。


 * * *


アデレートはやっとの思いで自宅へ。

 ドアを開けると、二人の人影。

「ルーッ」

 イスに座っていたふたりが立ち上がる。

「ごめんなさい。行くところが・・・鍵が開いていて・・・」

「リク、ルーは?」

「その格好は?」

「そんなことよりっ、ルーはっ?」


 アデレートは別の部屋、ルートヴィーズの寝室を見渡す。

 家中、どこにもいない。


 ロイドが言う。

「店じゃないのか?」

「店?なぜ?」

「ほら、馬車がとまってる・・・」   


 窓の側に立っていたロイドが、窓の外をあごで示す。

 窓に近寄ってみると、そこにはたしかに馬車が見えた。


「ルーが危ないかもしれないんだ。店に行ってみる」

「じゃあ、私達も一緒に」

「リクが望むならそうする」

「わかった」


 三人は急いで『ヴィーキツ』へと向かった。

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