第21話 情報屋と尽きない刺客
ブランの仕立て屋を出て、右方向に歩いてしばらくすると、見えてきたのは落書きのようにU2と書かれた木の看板だった。
あからさまではあるが、みすぼらしい木の看板のそばには薄暗い路地裏が細く伸びていた。
俺は迷うことなく細い路地裏へと進むと、そこにポツンとあったのはこれまたみすぼらしいBARだった。
BARに入ってみると、そこにはすでに数人の客がカウンターに座っており、店主と思われる妙齢の女が、コップを磨きながらわずかに俺に目を向けてきたが、すぐに逸らした。
挨拶も無い店内を見渡してみると、思いのほか客入りが良いように見えた。
各々に好き放題飲んでいるように見えたが、よそ者の俺が入って来た事に反応する奴が、店主の女以外見受けられなかった事が怪しく思えた。
とはいえ、ここに用がある俺たちは店主に近いカウンターの席に腰を下ろすと、店主と思われる女が話しかけてきた。
「なんにする?」
「そうだな、お勧めはなんだ?」
「そうだねぇ・・・・・・エールが人気だよ」
「じゃあそれを三つくれ、それとここの店主は?」
「私だよ?」
そう口にした女に目を向けると、そいつはとがった耳と、少しくたびれた様子の目つきをしたエルフの女だった。まぁ、貧民街にいるようなエルフとなれば相当の訳アリだろう。
っていうか、婆って聞いてたが、どこからどう見てもこいつが婆には見えねぇ。いや、長命のエルフ族って言われる位だから、年齢だけは相当いってるという意味で婆なのか?
そんな、違和感に悩んでいると、俺の両隣に座る女どもが不機嫌そうに話しかけてきた。
「ちょ、ちょっとマスター、こんな時間からお酒ですか?」
「なんだ俺の酒が飲めねのか、エスカ?」
「い、いえそんな事は・・・・・・・」
「巨人族は酒が好きだと聞いたが?」
「それはそうなんですが、男性が女性にお酒を送るというのはどういうことか理解しておられるのですか?」
そんなことを言いながら、恥ずかしそうにモジモジとしながら俺を見つめてくるエスカの様子はどこかおかしく見えたが、今はそんなことにかまっている暇はなかった。
「黙って飲め」
「はぁっ、はいっ・・・・・・一生ついていきますマスター」
エスカはよくわからないことを言いながら、まだ酒も飲んでんぇのに顔を赤らめる様子を見せた。
そして、文句を言ってくる女はもう一人、そばかす女だ。
こいつに関していえば、確かに本当に酒が飲めるかどうかの判断を迫られる部類ではあるが、こいつはただの人間じゃねぇ、酒を飲んだくらいでどうにかなるような奴じゃない。むしろ、酒を飲んで大人しくもらった方がいいに決まってる
「あのぉ、私、お酒飲めないんですけどぉ」
「口付けるだけでもいい、注文したのはせめてもの礼儀だ、ただで居座るわけにはいかねぇだろ」
「それはそうかもしれないですけどぉ・・・・・・」
そうして、エルフの女店主によって褐色のエールが入ったジョッキが運ばれてきた。そしてそれをを手にした俺は、すぐさま口をつけて一気に飲みほした。
すると、そんな様子にエルフの女店主が嬉しそうに見つめてきやがった。
「ん、なんだ?」
「いい飲みっぷりだね、見てて気持ちがいいよ」
「礼儀で飲み干したまでだ、もういらねぇ」
「それでも嬉しいよ、今日は何かの用があってここに来たの?」
「そのつもりだったんだが、この店が繁盛しているみたいでその気になれねぇんだ」
「そう、いつもはこうじゃないんだけどね、この辺りもずいぶんと物騒になったみたいだ」
「その口ぶりだと貧民街が平和みたいだな」
「平和だよ、私みたいなものでも生きていられる」
「で、物騒というのはどういう意味だ?」
「言葉通りだよ、全部あんた目当てみたいだよ?」
エルフの女店主はそう言って俺の背後に目配せをした。俺は振り返ってカウンターを背もたれにすると、そこには物騒な顔立ちの男たちが立ち上がって俺をにらみつけていた。
どこからどう見ても悪意のこもった顔をしたやつらを前に、面倒ごとが次から次へと押し寄せることに嫌気がさした。
「おいエスカ、お前の出番だぞ」
そうして、エスカを肘で小突いた。すると、エスカはカウンターに突っ伏しながらむにゃむにゃとろれつの回らない言葉を発し始めた。
「だめですよマスター、私達まだ出会ったばかりなのにそんにゃ事ぉ」
「・・・・・・」
エスカは完全に酔いつぶれた様子で目をつむっていた。巨人族の女は酒が強いと聞いていただけにこのありさまに絶望していると、反対側にいるそばかす女もエスカ同様にカウンターに突っ伏していた。
こいつの場合は、エスカとは違いわずかに意識を保っている様子だったが、明らかに酔っぱらっている様子だった。
「なんらか、気持ちが良くなってきましたぁ、ケプッ」
そんな事を言いながらそばかす女は、炎交じりのゲップをしやがった。
その異様な光景に驚きながらも、俺は一人でこのチンピラどもを相手にしなければならない事を覚悟した。
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