第13話 オリジン
マスベの案内で俺たちは客室の前まで来るとマスベが話しかけてきた。
「それで部屋はどうする?一緒にするの?」
「俺は一人で寝る、おまえらは好きにしろよ」
俺の言葉に、そばかす女とエスカは互いに見つめ合った後「別々」という言葉を発した。そうして、三人別々の部屋にすることに決まり、俺は疲れた体を癒すために部屋に入ろうとしていると、マスベが呼び止めてきた。
「ねぇ、メフィウス話があるんだけど」
「なんの話だ?」
すると、マスベは俺に耳元に顔を寄せてきた。
「あの、そばかすの子についてよ」
「あいつの何が気になるんだ」
「とにかく、中で話しましょう」
客室に入ると、マスベはすかさず扉の鍵を閉めて【遮音】と【感覚共有】の魔法をかけてきた。よほど内密な話らしい。
「さっそくだけど、あのそばかすの子はなに?」
「何って、そばかす女だな、確かサラマンダーとかいう名前をしてたなぁ」
「どこで出会ったの?」
「ダンジョン30階にあるクイーンルームだ」
「30階?あの子がそんなところに?」
「いや、あいつは落とし穴に落ちたそうだ」
「そう・・・・・・」
「あぁ、何がそんなに気になる、言ってみろ」
マスベはずいぶんと深刻そうな様子を見せていたが、その理由が俺にはわかっていた。なぜなら、俺自身あのそばかす女の異常性に気づいていて、その正体に多少なりとも心当たりがあったからだ。
「圧倒的な魔力量よ、あんなの絶対おかしいわよ、底が見えないもの」
「あいつが言うには、魔力切れを起こしたことがないらしい。もちろん俺が吸い取っても全く動じない」
「それ本当なの?」
「あぁ、都合の良い魔法のツボだ」
「・・・・・・ねぇ、まさかとは思うけどあの子【オリジン】じゃないわよね」
「いい感をしてるな、さすがは俺と同じギルドマスターに上り詰めた女だ」
「ちょっと、そんなのんきなこと言ってる場合じゃないわよ、大丈夫なのっ?」
「何も起きてないんだから大丈夫だってわかるだろ」
「それは、そうね・・・・・・」
「あぁ」
「あの子が妙にあなたに執着していると思ったけど、そういう事だったのね」
「おそらくな・・・・・・俺がへましねぇ限りは大丈夫だが、本当にあいつがそうという確証もねぇな」
「絶対に名前を呼んじゃ駄目よっ」
「わかってる呼ばねぇって、いきなり叫ぶなよっ」
そう言うと、マスベはわずかに安心した様子を見せた。
「はぁ、それにしても本当によく生きて帰ってこられたわね、あなた」
「俺が死ぬわけないだろ」
「いや、そうなんだけどねぇ・・・・・・でも、全能も失ってたんでしょう?」
「地上近くで失ったから問題ねぇ」
「そう」
まぁ、マスベの心配するのも無理はない。
落とし穴で即死確定からのクイーンルームの怪物【オリジン】と出くわすなんて、普通の奴だったら確実に即死コンボだっただろう。
「あいつに【オリジン】だという自覚はねぇ普通の女だ、だが、異常なほどの力と妙に名前を呼ばせようとしやがる様子から奇妙だと思ってた」
「子どものような容姿と、人間と変わらぬ性格、標的に対する異常な執着と強い力、報告にある【オリジン】特徴そのものじゃない」
「だが確定したわけじゃないぞ?」
「呼ばないでね」
「わかってる・・・・・・だが、そうなると俺はよっぽど神に嫌われてるらしい」
「そりゃあ、全能の神に見放された男だものね」
「その件については俺はまだ納得してねぇんだが」
「あなたはもういらなーい、って女神さまがおっしゃったのよ」
「・・・・・・ふざけやがって」
「ところで、あの巨人の子はどうしたの?あっちも訳あり?」
「あいつは、燃費の悪い魔法戦士だ、使い物になりそうだから部下にした」
「巨人の魔法戦士ねぇ・・・・・・」
「それはそうと、お前は俺の相手をしてていいのか?」
「あら、どうしてそんなことを聞くの?」
「プリンスが主体で動くとなれば、他のギルドマスター共と結託してるんじゃねえのかとおもってな」
「そうねぇ、私以外のギルドマスターは全員プリンスの意向に理解を示しているわ」
「それでいいのか?」
「当たり前じゃない、さっき第二王子が言っていたけど、これからは魔法世界の発展が望まれているのよ、そこに魔法ギルドのギルドマスターであり、スペシャルな私が必要とされないわけないでしょう?」
「・・・・・・確かに、そうか」
「この国を支えている様々なインフラは私達のギルドが担っているのよ、それをどうにかしようなんて、誰も考えないし、いざとなったら受けて立つわ」
自信満々に答えるマスベは、実にギルドマスターらしい頼もしいものだった。
まさか、こいつと同盟を組んでいた事がほんのわずかに俺の心のよりどころになっているとは思いもしなかった。
そう思っていると、マスベが何かを思い出したかのように指をパチンと鳴らした。
「あっ、そういえばあなたに言っておかなければいけないことがあったの」
「なんだ?」
「あなたの【MP吸収】を阻害する魔道具開発しちゃった」
「おいてめぇっ、どっちの味方だぁっ」
「違うの、一応私だってこの国に誠意を見せないといけなかったのよ、なにせ私はあなたと違ってコミュニティを大切にする方だからね」
「そんなもん知ったこっちゃねぇ、そのつまらねえ魔道具をよこせ、ぶっ壊してやるっ」
「ごめん、もうくにがおかかえの研究機関に渡しちゃった」
「・・・・・・」
「大丈夫よ、この程度であなたがやられるわけないでしょう?」
「ただでさえ全能がねぇから、もしもの時は肉弾戦を強いられるってのに、余計なものまで開発しやがってこの野郎」
「巨人の子がいるじゃない、あの子強そうよ」
すべてが俺を消そうとしている。もう、世界が俺を拒絶しているという事実を本格的に受け入れた方がいいみたいだな。
「そういう問題じゃねぇよなぁ」
「でも、私だってあなたに消えてもらったら困るのよ」
「命乞いか?」
「そうじゃないわ、あなたの力が必ず必要な時が来る、それは間違いないの」
「・・・・・・」
意味深な言葉を吐いてきたマスベだったが、もうこれ以上話を続けるのが嫌になった俺はその言葉を無視した。
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