第9話 生きる目的
厄介な刺客を追っ払ったのはいいが、肝心の仮面の男を逃してしまった。
その代わりに、そばかす女と巨人女が手元に残ったわけだが、こいつらがいた所で俺を貶めた奴らの親玉へと近づく事なんてできやしねぇ。
そう思って俺は足元の巨人女を蹴散らし、そばかす女の頭を強く握った。
「痛いいたい、なんなんですか一体?」
「てめぇらのせいで敵の情報を入手し損ねた、どう責任取るつもりだ?」
「そんなの知りませんよぉ」
「ちっ」
そばかす女を手放して廃墟から去ろうとしていると、巨人女が俺についてきた。
「あの、どこに行かれるのですか?」
「どこでもいいだろ」
「あの、私もついて行っていいですか?」
「好きにしろ」
「やったっ・・・・・・あ、私は【エスカー・D・エムーカ】と言います」
「なんだその名前は、ふざけてんのか?」
「そ、そんなふざけていませんよ、エスカとお呼びください、マスター」
「マスターだと?」
「はい、無礼ですか?」
「構わん・・・・・・エスカ」
巨人族の女にしてはずいぶんと従順な女だ、悪くない・・・・・・だが、それにしてもあの仮面の男は何だったんだ?
奴は、俺が死んでいないという事をわかっていて命を狙ってきていた。しかも、これから来る新時代のためには、俺は不必要だとも言ってきやがった。
誰の差し金か、その目的すらもわからないが、間違いなく俺の存在が邪魔だという連中がいるという事は分かった。
プリンスもそのうちの一人だっていう事は分かっているが、そうなると他のギルドマスターたちも同じ目的で俺を仕留めようとして来ているかもしれねぇ訳だ。
「あのぉ、ちょっと聞いてるんですかぁっ!?」
俺が重要な考え事してんのに、そばかす女が必死で俺に話しかけてきてやがる。
「なんだよっ、うるせぇガキだな」
「が、ガキじゃありません、サラ・アンバーです」
「ちっ、それがどうしたそばかす女っ!!」
どんだけ自己紹介するんだこいつ、何が目的だ?
「ど、どうしてこの方の名前で呼んで、私はそばかす女なんですか?」
「・・・・・・何が言いてぇ」
「だから、私の名前はサラ・アンバーです、覚えてください」
「それは知ってる」
「じゃあ呼んでくださいよ」
「呼ぶ理由がねぇな」
「なっ、私はあなたの命の恩人ですよっ、もっと感謝した方がいいんじゃないですか?」
何だこいつ、なんで俺に付きまとってきやがる。おまけにやたらと話しかけてきてうるさくて仕方がねぇ。
そんな、うっとおしい虫の様なそばかす女を追い払っていると、ふと、声が聞こえてきた。
「あらあら、相変わらず女の子にモテるみたいねぇ、メフィウス」
聞き覚えのある不気味な声色、その声は廃墟の近くにある大木の木陰から聞こえてきており、木の側に立つ姿は見覚えのあるシルエットをしていた。
真っ黒な長髪、赤い瞳、恐ろしいほどに白い肌をしたその女は、わずかに微笑みながらゆっくりと俺に近づいてきていた。
俺の予想だと、こいつもおそらく俺の命が目当てでやってきたという事になるのだろう。
「次から次へと、お前も俺の命を狙いに来たのか?」
「あら、そんな事するはずないでしょうメフィウス。あなたと私は同盟関係、昔からの仲じゃない、そうでしょう?」
「お前は確か、マスカット・ベリー・バナナ・・・・・・」
「【マスベ・カトリーナ】よっ!!」
大声で自己紹介をする女は、顔を真っ赤にしながら叫んだ。
「わ、わかってるっ」
「わかってないでしょっ、本当にあなたは昔から名前を覚えないわね、他人に興味がなさすぎるのよっ」
「そうでもねぇよ、ここにいる巨人女はエスカって名前で、そばかす女はサラマンダーだ」
「だ、誰が、トカゲですかーっ!!」
そばかす女はすぐさま俺に突っかかってきた。
「わ、わかってるっつの」
「わかってませんよ」
そばかす女がうっとおしい疑いの目をかけてきやがる。
それにしても、女は嫌いじゃねぇが群れると耳がキンキンするのは勘弁だ。だが、それを逃がさないように、マスベが俺の目の前に立ちはだかってきた。
今のところ殺意はない様子らしい・・・・・・
「んだよ、なんか用か?」
「えぇ、あなたにこの世界の意思を伝えておきたいと思ってね」
「世界の意思?」
「えぇ、あなたの様子を見るに、状況をうまく呑み込めていない様子ですし」
「ちっ」
「舌打ちしないの、いいから私についてきなさい」
「面倒だ、ここですべて教えろ」
「わがまま言わないの、ここじゃなんだし私のギルド本部に招待するわ、その方が安全よ」
そうして、マスベは不敵な笑みを浮かべながら無防備にも俺に背を向けて先導し始めた。その背中を見つめているとエスカが話しかけてきた。
「あの方について行ってよろしいのですかマスター?」
「情報を得るにはもってこいの相手だ、ついて行っても悪くはないだろう」
「そうですか、なんだか不気味で底知れない方に見えます」
「あいつは魔術ギルド【JU×JU】のギルドマスターだ」
「ぎ、ギルドマスターですか」
「あぁ、せいぜい大人しくしとくんだな、あいつは見た目よりも凶暴で気分屋だ、下手すると焼き殺されるぞ」
俺の言葉にエスカとそばかす女は、青ざめた様子で生唾を飲み込む様子を見せた。そのとぼけた面は見るに堪え無いものであり、俺は二人を置いてマスベの後を追った。
そうして、マスベの案内でたどり着いたのは、不気味で悪趣味な薄暗い城だった。
「相変わらず気味の悪い所だ、帰りてぇ」
「それがいいのよ、寄り付かせないのも護衛の術よ、さぁ入りなさい」
マスベはご機嫌な様子でそういうと、クモの巣の様な鉄扉がギシギシと音を立てながら開いた。悪趣味な出迎えにうんざりしながらも、俺たちはマスベのギルド本部へと足を踏み入れた。
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