第43話「集音器セット」

 チュンチュン、チュン──。



「とはいったものの、まずは証拠を探らないとな──」

「しょーこ?」


 たっぷり寝て、たっぷり飯を食べたミールがかわいらしく首を傾げる。


「そうそう、証拠。……胡椒じゃねーぞ」


 しかもピリリと効いたとっておきの証拠がいるんだよ。


「ふーん。聞いたらいいのに」

「それができれば苦労はねぇよ」


 いきなり「お前やったなー」といって「はい、やりました」というアホはいない。

 なので、一番は決定的な証拠を押さえることだ。


 しかし、現代日本のように写真だの録音だので抑えることは不可能だ。まぁ、『補給』システムの中にはカメラくらいありそうだけど、それが証拠になるとは言えないのがつらいところ。


 なにせカメラや写真の概念がない世界だからな。


「一番は、カミラが城塞で盗賊をフン捕まえて吐かせることなんだけどなー」


 実は、あの城塞。

 ここからかなり離れていると思ったけど、藤堂が迷いまくっていただけで、馬で1日の距離にあるそうだ。


 だから、今カミラたちはパーティを募って、偵察──そして、状況が許せば盗賊を捕縛するために動いている。


 その間に藤堂はギルドマスターを監視するのだ。


 立ち回りを逆にしてもよかったが、一度藤堂はあの盗賊団をシャーマンで撃破しているので、こっそり近づいて仕留めるのは不適と判断されてしまい、こうして居残り組となったわけだ。


 ……とはいえ、いいアイデアがない。

「むー……」

「むー」

 黙って監視するだけなら猿にでもできる。


「実際、ミールが言うみたいに聞いて話してくれれりゃ一番楽なんだけどなー」


 ……ん?


 聞く──。

 話を、聞く………………あ!


「──ナイスだ、ミールちゃん」

「ふみ?」


 そうだ!

 聞けばいいんだ!!


「そういうのにうってつけの物が確かあったはず──……」


 『補給』システム発動。


 え~っと、確かこの辺に……。


「あったー!」



  デデドン



 見つけたそれを、即購入した藤堂。

 それはコードのついた奇妙な形をした物体で、ミールちゃんが不思議な顔で眺めていた。


「なにこれー」

「ふふふ、よくぞ聞いてくれました!」


 これぞ、1942年。ガダルカナル戦で大活躍したアメリカ軍の工兵機材(通信兵科も運用)──……「集音器セット~~!」


「──それと、ウェスタン・エレクトリック音響側位装置の二種類だな」

「う、うぇ??」


 うん、わからんよね。


 この器材は、ジャングルでの戦闘に不慣れな米軍が、夜間戦闘に慣れた日本軍に対抗するために仕掛けた音響装置の一種で、ジャングルに溶け込む小型マイクのことだ。

 なんとこれで検知範囲が数百メートルという優れものだったという。

 明瞭さには欠けるがきちんと話声も聞き取れたのだとか。


 さらには、それらを増幅しヘッドセットと組み合わせて分析するための装備として、ウェスタンエレクトリック音響測位装置があり、このセットが絶大な効果を発揮したと言われる。


「へー……」

「うん、わかってないね」


 口ぽかんとあけてるし。

 まぁ、でもこの装置を使うに当たってはミールちゃんの協力も絶対必要なので、後で覚えてもらおう。


 そして、その前に──。


「その前に~?」

「……仕掛けにいかないとな──」


 そう言うや否や、機材を担いで藤堂とミールは冒険者ギルドに向かうのであった。

 そして──。


 多くの冒険者でごった返すギルドの中、掲示板をみるなりして時間を潰し、ギルドマスターが動き出すのをしばらく監視した。

 向こうは向こうでこっちを気にしているのか、一度目があうと苦虫をかみつぶしたような顔をして睨みつけてきたん。


「……いや、なんでやねん」


 睨みたいのこっちやっちゅうねん。

 まぁええけど──。


「カミラが戻るまでにこっちも仕事をしねぇとな」

「しごとー」


 そういいつつ、チューチューとジュースを飲んでいるのはミールちゃんだ。


 ギルドマスターの見張りなんていう退屈な仕事にはすぐに飽きてしまったらしい。しゃーないので、併設されている酒場で甘味とジュースをおごってやったというわけだ……お。


 昼時を回ったころ、暇そうな顔をしたギルドマスターが動き出す。

 どうやら、一度家に引き上げる様子。午後イチ退勤とはお代官様だねー。


「いくぞ」

「むー? まだ飲んでるぅ」


 いいから!


「あとでコーラ買ってやるから」

「ぶー。……それならいいー」


 ええんかい!


 まぁ、コーラは美味しいからな。


 飲みかけのジュースを一気に飲み干すミールちゃんを小脇に抱えつつ、藤堂はギルドマスターの後を追うのであった。

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