第31話「商人一行」
「いやー、助かりました」
ペコペコとお辞儀しているのは、さっき護衛されていた商人風の男だった。
やはり、というか、当然彼が今回の戦闘に護衛対象で間違いなしい。
「なんの、こっちこそ急にすまんな」
いきなり出現してビックリしただろう。
だけど、さすがに見捨てるわけにはいかず乱入してしまった。
「いえいえいえ! まさかまさか! 危ないところを助けていただいて──その……?」
ん?
「あ、あぁ。ただの旅人だ──別に礼をよこせとかいうつもりはない」
そうやらなにを警戒しているのか察した藤堂は先手を打って、とくに何かを要求する気はないと伝えた、
すると、あからさまにホッとした様子。
まぁ、ゴブリンにやられかけていたところを圧倒的な武力で殲滅したのだから、
その武力が自分たちに向かないと言い切れんかったのだろう。むしろ、この警戒心があって当然だ。
そもそも、ダークエルフのミールといい、シャーマン戦車といい、怪しすぎるからな。
「そ、そうですか。いえ、御礼は是非ともさせていただきたいです、はい!」
「気にしないでくれ──それより、そっちは大丈夫か? えらく手ひどくやられていたみたいだけど……」
少し離れたところで、うめき声をあげている若者が数人。幸いにも死者はいないようだが、結構な重症に見える。
「は、はは。お恥ずかしい──ゴブリンがこんなに出るのは滅多になかったもので油断しました」
……油断で済むかね?
一歩間違えれば全滅してたんじゃ──まぁ、要らんこと言わないけど。
だって、この荒野で初めて会った(エルフと賊を除く)第一村人だもん!
親切にしなきゃね。
「幸いにもヒーラーがおりますからなんとか……。まぁ、痛みでしばらく動けないでしょうな」
おぉ!
ヒーラーときたか。なんか異世界っぽい。
見れば向こうのほうでは、うめく若者に、ポワー♪と光るエフェクト付きの魔法処置が施されていた。
RPGでいうところの回復魔法というやつかな。
とはいえ、効果は弱いのか、かなりの負傷者は動けない様子。
「……よかったら手伝おうか?」
「え?」
あのままだと出発もままならないだろうしな。
それに恩を売っておいて損はなさそうだ。
「その──」
「藤堂だ」
名乗ってなかったわ。
「と、トウドウどのは、治療師様で? それとも──チラリ」
ミールをみる商人。
「いや、この子は近接専門」
……多分。
「代わりにこれを提供させてもらうけど、いいかな?」
そういって取り出したのは、いつもの補給品だった。
※ ※ ※
「うわ! なんだこれ──い、痛みが消えたぞ!」
「す、すげー!」
補給画面から取り出した医療品『モルヒネ』を打ってやるとたちまち元気になって冒険者たち。
もっとも、痛みが一時的に消えただけで、直ったわけじゃない。
「暴れないでくれ──おい、ミール。負傷者全員にモルヒネとサルファ剤──あと、切傷には包帯を配ってくれ」
「はーい」
素直なミールに医療品を渡して配らせる。
暇をみてある程度の使い方は指南していたので、ミールもこれくらいならこなせるのだ。
「すまないね──助かるよ」
そういって肩に手を置いてきたのは、戦闘中もみた女戦士だった。
……きわどい恰好をしているので、痴女かと思ったけど、実はこの冒険者たちのリーダーだという。
あ、そうそう。
冒険者で合ってました。彼女の名は、カミラ。商人であり、雇い主である──ゴーズさんの護衛だという。
「なんの、数はあるから気にしないでくれ」
「助かるよ。あ、これ──受け取ってくれないか」
そう言って渡してくれたのはゴブリンの部位だ。
「うげ! なんだこれ?!」
「ん? 魔石と討伐証明だが──……もしかして知らないのか?」
知らん……。
「驚いた。あれだけの腕でありながら、冒険者じゃないのかい?!」
「違うぞ。……さっきも言ったけど、ただの旅人だ」
「そんなただの旅人聞いたこともない。……暗黒の荒野の先から来たのも驚きだし、この鉄の大亀だって驚いたってのに」
さらにはミールちゃんもいるしね。
……しかし暗黒の荒野?
「知らないのかい?! ほんと、おっどろいた──アンタ何も知らないんだね」
すまんな。
なんせ、いきなりこのあたりに捨てられたもんでね!
「……まぁ、色々事情ありのようだね。とはいえ、恩人あいてに野暮なことは聞かないよ」
「そりゃ助かる」
その後、治療の合間に少し話を聞くと、
どうやらこのあたりは何度も近隣国家が入植を試みては失敗した土地だという。さっきの廃屋もその成れの果てなのだとか。
だから、いまでは精々抜け道程度に使われているくらいなんだとか。
お口に行けば、山賊を始め、ゴブリンの群れや未確認だが未開の部族やグリフォンまでいるという──。
……うん、全部遭遇したわ。
「おそらくこのゴブリンどもも、グリフォンの縄張りが広がったせいでこっちに出張ってきたんだろう。普段はこんな群れみないからん」
だから襲われたんだと、ゴブリンの魔石と討伐証明が入った袋を見て苦笑いするカミラ。
う、うぅーむ。それって多分関節的に藤堂のせいだよな。
まぁ、言わんとこ。
「じゃあ、有難く貰っとくけど、これどうすりゃいいんだ?」
ぶっちゃけグロイしいらない。
それに戦果として奴等を撃破したおかげでMPはプラスになってるしね。
「ん? ギルドにもっていけばいいよ──あ、あぁ、そうか、冒険者じゃなかったね」
「あぁ、やっぱりその……冒険者ギルドかな? そこに所属しないとダメか?」
お金になるなら欲しいところ。
それにルルにも、ギルドの所属しろっていわれてたしな。ついでに情報収集しておこう。
「もちろんそうさ。だけど、お前さんの腕前なら問題なく所属できると思うよ。……よかったら町に着いたら案内するが──」
おぉ!
渡りに船だ。
それにこの流れなら、同行させてもらえそう。医療品配ったかいがあったというものだ。
「頼んでいいかい?」
「あぁ、もちろんだ──私の名は、あぁ、さっき名乗ったね。Cランクパーティ『鉄の乙女』のカミラだ。よろしく」
Cランクね。
強いのかどうか知らないが中堅っぽいな。
「旅人──藤堂あずまだ。こいつは相棒のミール」
「ミールだよ」
にひっ。
ちょうど医療品を配り終えたミールが戻ってきて藤堂の足にしがみつく。
「そして、」
「シャーマンだよー」
おい!
俺のセリフ。
……まぁいいか。
「M4シャーマン中戦車。俺の女房さ」
こうして、自己紹介を終え、藤堂とミール。そしてシャーマン戦車は一時的に商人ゴーズさんの一行に加わるのであった。
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