Case4 迫りよる真相

第7話 幽霊の正体見たり

「これからあなた方の話すことは全て証拠として使われます。もちろん、黙秘権はありません。弁護士も来ません」


 現在時刻21:13。芹澤ミヤコはソファに深く腰掛けて、そう切り出した。一度言ってみたかったセリフがマフィアみたいにアレンジされてしまった。

 いつも午後10時には就寝準備に取り掛かるミヤコにこの時間帯はキツイ。先ほどまで尋常じゃない程緊張していたのもあって一気に疲れが来た。もう目が半分閉じてる。ミヤコは飲み残していたブラックコーヒーをちびちびと飲んで、どうにか睡魔を抑え込んでいた。


 目の間には超常現象オカルト同好会の面子。二人掛けのソファに三人が押し込まれている。デスクの上には、幽霊衣装セット。そして、芹澤ミヤコによって剥ぎ取られた軍帽、白衣、そして三角帽子が丁寧に並べられていた。


「横暴です!そんなことが許されるはずがないっ!」


 榊原さかきばらレンは鼻にしわを寄せて叫んだ。早乙女さおとめトオルと月城つきしろヒナも続いて「それでも正義の味方か!」「そうです!法が黙ってませんよ!」と援護。こんな調子でいつまでも往生際おうじょうぎわ悪くねばっていた。いつものミヤコなら茶番に付き合って情報を引き出すくらいやってのけるのだが、今の彼女にそんな余裕はなかった。


「この軍帽、コーヒーが飲みたいようですよ。あげてもいいですか?」そう言うと、ミヤコは頬杖を突きながら、持っていたマグカップを軍帽の上でゆっくりと傾け始めた。こぼれるかこぼれないか、ギリギリを攻めるような動きだった。


 月城つきしろヒナから悲鳴が上がる。本当はミヤコもこんなことはしたくなかった。だけど、これも真実のためには仕方のないこと。あと、単純に早く帰りたかった。


「な……やめたまえっ!鬼か君はっ!それは僕たちの魂なんだぞ!」


「なら白衣にしましょうか。汚れていた方がはくが付きそうですし」


「ちょちょちょちょっ!勘弁かんべんしてくださいよぉ!?」


「三角帽子は?コーヒー味にしたくない?」


「イヤです!本当にやめてくださいっ!お願いします!」


「じゃあ、なんでこんなことをしたのか話してください。話さないなら、30秒ごとにこぼしていきます。まずは……三角帽子から」


 ミヤコはスマートフォンを操作し、“00:30”と表示された画面を見せて机に置き、”開始”を押した。猛スピードで数字が減っていく。早乙女さおとめトオルが「会長……!ヤバいっすよ!」とあわてて榊原さかきばらレンの肩をする。榊原さかきばらレンは整った目鼻立ちを強張らせて減り続ける数字を凝視ぎょうししていた。月城つきしろヒナは顔面蒼白だ。


 ミヤコは三人の様子を欠伸あくびを噛み殺してじっと見ていた。もとよりそんな非道なことをするつもりは無い。それぞれがどういう反応をするのかを見たかった。カウントが00:10を切ったとき、榊原さかきばらレンが額に汗をかいて叫んだ。


「わ、分かった!話す!だから返してくれ!後生ごしょうだ!」


 ミヤコは停止を押した。00:06。かなりねばったな。ふむ。会員二人は自分が犠牲になることでは口を割らずに、会長がかばう形で根を上げた。なるほど。そういう集団チームか。


「なんて!冗談ですよ。いやだなぁ。そんなことするわけないじゃないですかぁ」


「き、君なぁ……!」


 スマートフォンが震える。

 リカからのメッセージだ。


 ◇◇◇


『ミス研グループチャット(2)』


【リカ】ミヤコ先輩。そろそろ返してあげましょう。かわいそうです(21:16)


【ミヤコ】リカは優しいなぁ。了解(既読)


 ◇◇◇


 ミヤコはチラリとリカ入りのロッカーを見る。久しぶりの展開に思わず笑みがこぼれた。もう対人エネルギーは完全に切れたらしい。かなり頑張ってくれたから、ゆっくりしていてもらおう。


 ミヤコはパンっと柏手かしわでを打ってにこやかな雰囲気を取り戻した。


「はい!では返してあげます!どうぞ!」


 超常現象オカルト同好会の三人は顔を見合わせる。各々が警戒するように帽子や白衣に手を伸ばすと、素早く取り返して身に着けだした。ほっと胸を撫でおろしている。月城つきしろヒナにいたっては帽子を抱きしめて涙ぐんでいた。


 ミヤコはマグカップを口元に寄せて小さく傾けた。

 クーラーの風に当てられて風鈴が「チリン」と揺れた。


 つづく

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