解明の第二部

第6話 部室は甘くも怪しい香り

 ――Side:草野ショウヘイ


「あっ!来た!わかった!!」


 激しく鳴り続ける雨音をかき消すように、芹澤ミヤコの実質的な勝利宣言が体育館のフロントに響き渡る。


 ――終わった。全部。


 何がきっかけでバレたのかわからないけど、あの意味深な笑み。“お前がやったんだろ”と目が語っていた。なんでこんなことをしてしまったのか。自分はこれからどうなってしまうのか。自分のやってきた努力はなんだったのか。後悔は尽きないが、今となってはすべて後の祭り。スリーポイントシュートはもう二度と入らない。


「よくわんないですけど、良かったっすね。先輩」


 草野ショウヘイは近藤ミツルに締め上げられながら、その言葉がポロリと落ちた。何も取りとりつくろっていない、とても自然な声色だった。


 ◇◇◇


 ――Side:芹澤ミヤコ


 芹澤ミヤコは体育館に残る近藤ミツルと草野ショウヘイに協力のお礼を言うと、小雨の中を駆け抜けた。持ち前の健脚けんきゃく遺憾いかんなく発揮した結果、被害は軽微けいび。服も透けていない。問題無し!手早くハンカチで肌を拭い、ミステリー研究会の部室に急行する。ミヤコはリカの推理を早く聞きたくて仕方がなかった。


「ごめーん!遅くなっちゃった!」


「あ、ミヤコ先輩。お帰りなさい。コ、コーヒーをどうぞ」


「おぉ!ありがとう!リカは気が利くなぁ」


 デスクの上にはミヤコ専用のマグカップから湯気が揺らいでいる。ミヤコはリカのはす向かいに腰を下ろして、マグを両手で包み込むように持ち上げた。雨で冷やされた指先にぬくもりが広がる。


「それでそれで?どう思う?犯人わかりそう?」


「い、いえ。もう少しかかります。ですが、もうほとんどわかっています」


 信田リカはメガネを両手で直し、何から説明しようかと考えを巡らしている。声の奥にかすかな興奮が混じっていた。ミヤコは熱々のブラックコーヒーに軽く口をつける。


「ほとんどわかっている?容疑者が絞れたってこと?」


「正確には候補者ですね。5人ほどお話を伺えば、必要な情報は揃います」


 雨音がすっかり消えた部室に蛍光灯がパチリと弾ける音が響く。ミヤコは目を見開いてリカの顔を見た。候補者を5人、あの輪番表から予測したというのだろうか。この後輩はいつも思いもよらない角度から真実に手を伸ばす。まったく、頼りになりすぎる後輩だ。


「ええっ!どうやってそんなに絞ったの?」


 リカは恥ずかしそうに目を逸らす。そして、きょろきょろと視線を泳がせた後、再び丸メガネの奥、大きな瞳を伏し目がちにミヤコへ向けた。


「……そうですね。では、推理といっしょに順を追って説明しますね」


「おっけー!カフェオレ飲む?」


「は、はい!飲みます!」


 リカはパッ顔をほころばせて空のマグカップを持ち上げて、立ち上がった。リカからマグカップを受け取ったミヤコは慣れた手つきでカフェオレをれる。今回はチョコレートフレーバー。甘い香りが部室に漂う。自分もたまには加糖にしようとハーフサイズのシュガースティック一本とスプーンをつまみ上げて、ソファに戻った。


 つづく

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