第18話 村の宴会
広場の片隅で、ゼラルドたちと約束していた杖作りを始めるディラン……ガリッ、ガリッと木を削り続けていたが、横からの視線が気になり、その視線の主に声をかける。
「で……なんでお前さんはそこでジッと見てるんだ?」
その様子を横から眺めていたフラムはその問いに口を開く。
「え?だって暇なんだもの。姉さん以外はあたしが怖いのか、話しかけても逃げて行くし」
ガリ、ガリ、シュルシュルシュルシュル……
木を削りながら、フラムの言葉に相槌を打つ。
「ん〜、そりゃしょうがないんじゃないか?フラムも名前持ちってやつなんだろ?この世界じゃ、特別な意味を持つって聞いたが、そこまで怖がられたりするもんなのか?」
前にダナンが口にしたことがあったため、フラムが名前持ちであることは知っていた。ディランにとってはそれがどんな意味を持つのかは分からないが、村人達からは畏怖や尊敬に近い距離感があるのは見て感じ取っていた。
「名前持ちって言っても、お偉方が勝手に決めた儀式みたいなもので、あたし自身はそこまで気にしてないのに」
(確かに、名前を持ってるからといって偉ぶったりしてる姿は見なかったしなぁ)
「そういうの気にしなさそうだしな。しかし、お偉方が決めた儀式ってのは?」
「ギルドの依頼もそうだけど、賊や魔獣災害で凄く活躍したり、市民のために何か貢献した人をお偉方が推薦して、名前を持たせてくれるの。簡単に言えば表彰式みたいなものかしら?」
「なるほど、俺たちの国で言う、受勲式と似ているな」
「そもそもね、名前を持たせるのなんて『この人、凄い人です』『私は偉い人です』って言ってるみたいで嫌なのよ」
名前持ちについて熱く語るフラムを眺めながら、杖を削り続けるディラン……その様子を広場の調理場から見つめる視線に気付かずにいた。
広場の調理場では――
「ロザミラさーん、全部仕上がりましたよー、広場の机にって、どうしたんですか?」
パタパタと調理場を走るシェリー。ロザミラに声をかけるが、広場の隅の方を見つめて動く様子がないことに首を傾げる。
「あの二人、いいわね」
ロザミラの視線の先には、ディランとフラムが映っていた。
「あの二人って?」
シェリーが問いかけると、ロザミラは勢いよく振り返った。
「ディランさんとフラムよ!あの二人、何かいい感じだと思わない?ねぇ、ほらっ」
そう言ってシェリーの肩を叩きながら広場の隅を指差す。
「フラムももう29歳なのよ!行き遅れて、ずっと独りなんじゃないかって私も諦めかけてたけど。ディランさんなら、あのじゃじゃ馬も任せられるんじゃないかしら?」
「ロ、ロザミラさん、落ち着いて。でも、確かに良い感じですね」
「シェリーちゃんもそう思う?あとでフラムにも話をしなきゃ……ぃゃ、……」
ぶつぶつと何かを呟きながら思考の海へと沈んでいったロザミラを見て、シェリーは諦めて料理の山に向かい合う……
「さぁ、運びますか!」
一緒に調理していた他の奥様陣とともに、大量に作った料理を広場の中心へと運び出していく。そうこうしている間に、村の中で作業をしていた者も広場に集まって来ていた。
広場に集まりだした村人達を見て、ディランも杖を削る手を止める。
(お、皆も集まってきたか。杖の方もあとは長さとかの微調整だけだし、この辺にしておくか)
「よし、ここまでだな。フラム、いくぞー」
同じ姿勢での作業で凝り固まった身体を伸ばしつつ、横を見ると……フラムがウトウトしながら頭をかくんっとさせていた。
「っん、?あら、終わったの?」
「いいや、あとは本人に使ってもらって微調整したら完成だ」
「ふぁ〜、そう、お疲れ様。本当に器用ね」
「まぁ、こういうのは慣れてるからな」
(昔は魔力操作の訓練だとか言って、木や石を削ったりさせられたが、身体強化しか出来なかった俺は地道に手で頑張ったもんだ……)
だが、ディランの場合はただ削るだけでは面白くないと、色んな形にしてみたり、日用品として使えそうな物を作ったりしたため、椅子や机、杖や棚なんかも器用に作れるようになっていた。
(そういえば、モヴーダと戦った時のあの加速は、身体強化によるものだった。あの感覚、色々確かめないとな)
魔法についてあれこれ考え始めたが、広場の方が賑わいだし、美味しそうな匂いが鼻をくすぐる。
「いい匂いだ。俺たちもそろそろ行くか」
「すぅ……ホント、いい香りね。ちょうどお腹も空いてきたとこなの」
お腹を摩りながら立ち上がり、広場へと歩き出す。
広場の中心には大きな木の柵で囲まれな焚火台が設置されていて、暗くなったら灯りとして使うためのものなんだろうと眺めながら考え、奥にある料理の机の所まで歩いて行く。
料理は色んな野菜をクタクタになるまで煮込んだスープと、大きな肉をホクホクになるまで煮詰めたスープが大きな鍋に入れられ、小さく刻んだ肉を木の串に刺して炙り焼きにされたもの、肉と野菜を串に交互に刺して焼いたものなどが並べられていて、どれも美味しそうだった。
フラムはその中から肉の串を二本取り、ディランのもとへ近づいてきた。
「はい、これ、タレが染み込んでて美味しいのよ」
左手に持っていた串をこちらに渡してくる。それを受け取り、肉の塊を一個、口の中に含んで噛みしめる。
甘辛いタレと肉汁が口の中に広がって、香ばしく焼けた肉の匂いが鼻から抜けていき……ゴクンと喉を通らせる。
「……うまい」
(タレの味も、肉の食感も、香りも喉越しも、最高だ)
「でしょ?あたしの大好物なの、ふふっ……ぁむ」
「ちょっと、あなた達。つまみ食いしてないで、食べる分だけ皿に取って、座って食べなさい」
後ろを振り向くと、両手を腰に当てながらロザミラが立っていた。
「ほら、あそこにあなた達の分の椅子も用意してるから、早く来なさいよ」
そう言って指差した方向には、ロズやシェリー、ゼラルド親子とチュチュリーゼたちが集まっていた。
ディランとフラムも串焼きやスープを手に皆のところへ向かっていくと、ダナンと見慣れない女性が声をかけてきた。
「初めまして、いつも夫がお世話になっています。ダナンの妻、ウルカと言います」
綺麗な茶色がかった長い髪を肩にかけ、お辞儀をする彼女を見て、ディランは慌てて返事を返す。
「ああ、いや、こちらこそ、訓練や昨日の戦いでも、ご主人には助けられてます……って、ダナン!お前さん、結婚してたのか?」
「まぁな、言ってなかったか?」
「聞いてないぞ」
「はは、まぁわざわざ言う事でもねぇしな。挨拶はそれぐらいで、食おうぜ!酒は飲まないのか?」
「ったく、酒は飲めないんだ。弱くてな」
「マジか、意外だな?いける口だと思ってたが、それならしっかり食って楽しもうぜ!」
「そうそう!早く食わねぇと無くなっちまうぜ!オッサン!」
「ロズ!ディランさんでしょ!いい加減にしなさい!」
「姉さんも大変ね、ロズもシェリーやゼラルドを見習いなさいよ?」
「他人事みたいに言ってるけど、あなたもロズと大して変わらないわよ」
「え!?流石にそれはないわよ……って、どうして皆目を逸らすの!?」
――村の皆が、食べて、飲んで、騒いで、村に被害がほとんど出なかったことに安心し、互いに感謝の言葉をかけながら宴会を楽しんでいた。
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