第16話 賊の襲撃②
村の入り口に向かったフラムは、柵の陰から入り口を見張る自警団と合流していた。
「なに?まだ攻めて来ないの?」
「ええ、あ?フラムさん!」
「それが、何度か矢が飛んでくるんだが、中には入って来ないんだ。何がしたいのか」
「完全に囮ね。いいわ、さっさと片付けてあげる」
そう言うや否や、剣を構えて走り出す。
その動きに合わせて入り口から矢が三本、フラム目掛けて飛んで来るが……バシュ!
一振りで全ての矢を焼き払った。
フラムは勢いを落とすことなく、入り口へ駆ける。
その手には緋色に燃える剣が、闇を切り裂く様に舞っていた。
「おい!なにか突っ込んで来たぞ!」
「くそ!相手は一人だろ!やっちまえ!」
迫ってくるフラムを迎え撃とうと賊たちが剣を抜く……が
「死ねや!あばっ」
ドサッ
一番前にいた賊が一閃され、燃えながら膝をつき、倒れ伏した。
「ひぃっ!こ、こいつ!?」
「燃える、剣……炎剣のフラムか!なんでこんなとこに!」
「マジかよ!おい、どうする!」
「怯むんじゃねぇ!こっちはまだ四人いるんだ、全員でやっちまえ!」
一斉にフラムに襲いかかる賊を相手に、臆する素ぶりも見せず……
「無駄よ」
小さく呟き、腰を低くして剣を後ろに構える……
「燃え尽きなさい!!」
ヒュッ……ブワッ!
高速で振り抜かれた剣から凄まじい炎が巻き上がり、空を裂きながら賊たちに襲いかかる。
「な!ぐぁあ!」
「あちぃい!」
炎に包まれながら倒れる賊たち。だが、炎から逃れた賊が一人、フラムの横から襲いかかる。
「くそ!死にやがれ!」
ヒュッ
短剣で切り裂くも、フラムに容易に躱され、反撃を受ける。
「甘いわ」
最後の一人も斬り伏せ、剣を鞘に納める。
「ふぅ、弱すぎて話にならないわね。あっちは大丈夫かしら?」
そう言って、村の東側を見つめながら村の中へと戻って行く。
「あんた達、まだ残ってる可能性もあるから、警戒はしておいて。あたしは東側の援護に行くから、後はお願いね」
「へ、へい!了解しました!」
走り去って行くフラムの後ろ姿を二人の村人は、尊敬の眼差しで見送った。
――村の東側、賊の頭目、モヴーダと対峙するディランたちは
「さて、いっちょやりますか!」
掛け声とともに駆け出すディラン、それに合わせてダナンも剣を構えて走り出す。
左右からの挟撃に対し、モヴーダがハンマーを回転させながら振り回す。
ブンブンブン、ガィン!
それをディランは盾で受けようと弾くが、ハンマーの芯は重く、左腕だけでは抑えきれず後方に飛ばされる。
「っぐ!重てぇな!」
「おい、ダナン!あの武器、どういう仕組みなんだ?」
「あれはリベルシェイカーって武器だ。
「マジかよ!?そいつは洒落になんねぇな」
「まぁ、連続でボンボン使えるわけじゃねぇから、速攻で決める」
(さっき使ったばっかだから、次にあれを使うまで余裕はあるってことか)
「そういうことなら、突っ込むしかねぇか!」
もう一度二人同時に駆け出し、ディランが前に出る。
「おらよ!」
左腕の盾の腹で殴りにかかるが……
ガン!
ハンマーの持ち手の部分で受けられる。その隙にダナンが反対側から斬りかかるも、持ち手の位置をずらしてハンマーのヘッド近くで、ギン!と音を立てて弾き返された。
「なんだなんだ?二人がかりでそんなもんなのか?ダハハハ!」
「くそ、舐めやがって」
ダナンが剣を構え直し、間合いを詰めて連撃を放つ。
カン!ギン!キィン!ガィン!……
モヴーダが連撃を受けている間にディランが回り込み、盾を振り抜く。
「後ろがガラ空きだ、ってな」
ガッ!と、鈍い音と手応えを感じたが……
「っゔ、ってぇなゴルァ!」
モヴーダは怯むことなく、ハンマーを振り回す。
二人とも武器でその攻撃を弾くも、後方に飛ばされる。
(あれで、びくともしねぇのか!?)
「っぐぅ、どうなって……!!」
「お前か!うぜぇ!うぜぇ!オラァ!!」
後方に飛ばされたディランに追い討ちをかけるように連続でハンマーを叩きつけてくる。
(うぉ、こりゃ、ヤベェな!)
そして、モヴーダがハンマーを振り上げ、渾身の一撃を放つ……
「死にやがれぇ!」
モヴーダがハンマーを振り下ろす瞬間、ダナンが左腕を斬りつけた。
「っぬゔゔ」
そのおかげで、ハンマーの軌道は逸れて地面に叩きつけられたが……
「ぐぅぉおああああアア!!!」
怒りで目を血張らせながら咆哮をあげ、ダナンに猛攻を浴びせる。
「ダナン!」
ディランも助けに入ろうとするが、先のモヴーダの攻撃ですぐに動けずにいた。
(くそ、脚が上がらねぇ!)
ダナンも何とかモヴーダの攻撃を剣で受け流したり、躱したりしているが、腹に一撃を受けて膝をついてしまった。
「っはぁあ!砕け散れやぁああ!」
重い一撃を剣で受けたが、その衝撃に耐えられず……キィン!と甲高い音とともに刃が折れた。
……ィィイイン
(この、音は!)
「ちっ、くそ……が、」
「っ!ダナン!」
ようやく体勢を整えたディランだが、駆け出そうと足に力を入れたところで、この距離では到底間に合わない。
(くそ!やらせるかよ!どうすりゃ!)
「うぉおおおおお!!」
雄叫びをあげながら、踏み込んだ瞬間……
ダンッ!
視界が跳ね、足元の土が爆ぜた。
ほんの瞬きする一瞬で、ディランはダナンの目の前にまで移動していた。
そのままの勢いで、左腕の盾をハンマーに打ち付ける。
ガァン!!
ハンマーのヘッドに直撃し、モヴーダがハンマーを持ったまま吹き飛び……空中で、ドォン!
爆音とともに衝撃波が発生し、その衝撃でモヴーダを地面に叩きつけた。
「ぬぐぁ!」
かなりのダメージを受けたようだが、モヴーダは狂気的な目を見開き、立ちあがろうとする……その頭上から紅く燃える陽炎が降り注いだ……ザシュッ!
「ゔぅ!かはっ」
その陽炎の元から炎が立ち上り、赤い髪が照らされる。
「フラムか!」
「ええ、仕留めたわよ。でも、今のは何?一瞬で移動したように見えたけど……」
「いや、俺にも、っ痛ぅ」
踏み込んだ足に力を入れた瞬間に激痛が走る。
「おい、大丈夫かディラン?あんたのおかげで助かったが、どうやったんだ?まったく見えなかったぞ」
(あれは、身体強化をして踏み込んだ時と似ているが……少ない力を一箇所に集めて無理やり解放したような)
「……そうか、そう言うことか!」
「うお!どういうことだよ!」
急に声を張り上げたディランに驚くダナン。
「いや、悪い。それより、フラムのその炎は?魔法なのか?」
「え?マホウって何よ?聞いたことないけど、これは魔獣の素材で作った武器だから、その特質で燃えてるのよ」
(なるほど、モヴーダの武器も魔獣の素材を使ってると言っていたしな。その特質は魔法と似ている。それに、身体強化の魔法が使えたということは、認知されていないだけということか?聖女と呼ばれる者の力は?そもそも、この世界のマナは……)
「……っと!ちょっと、聞いてる?」
「っ!すまん、柄にもなく考え事をしちまった」
「もう、急に動かなくなるから心配したじゃない」
「へぇ、あのフラムが、こいつの心配をねぇ」
「なに?あたしが人の心配するのがそんなに変なわけ?」
「いつもなら、『聞いてんのか?』って引っ叩いてるだろ?」
「んな!あたしはそんなに野蛮じゃないわよ!」
「おいおい、どの口が言ってんだよ!」
「っぶ、ははは!」
二人のやりとりを聞いて思わず吹き出すディラン。その様子を見てフラムが更に顔を赤くする。
「何がそんなに可笑しいのよ!もう!」
「っははは……とにかく、残りの賊も何とかして、火を消して回らないとな」
「おう、そうだな」
「あんたたち、後で覚えてなさいよ」
そう言って、襲撃の後始末に動き出した。
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