第6話 逃走と捕縛
俺が目を覚ました時、娯楽室はすでに秩序を失っていた。
かつては安らぎの場だった芝生は汗と吐息で湿り、仮想空間の青空は赤紫に歪み、甘い風が絶え間なく吹き込んでいた。
そしてその中央では、信じられない光景が繰り広げられていた。
赤いサテンのブラをつけた若い女性クルーが、隣にいた青いシルクショーツの同僚を背後から抱きすくめていた。ふたりは頬を寄せ、笑いながら互いの首筋に唇を押し当てている。濡れた布地が擦れ、甘い音を立てるたびに、青いショーツはさらに深い色に染まっていった。
別の場所では、白いキャミソール姿の女性研究員が床に膝をつき、年配の女性クルーと向かい合っていた。年配の彼女は淡いピンクのコットンショーツを濡らし、少女のように頬を赤らめている。ふたりは母娘のように頬を撫で合い、互いに涙を拭いながら唇を近づけていた。その距離は紙一枚ほどしかなく、触れるか触れないかの寸止めのまま、延々と囁き合っていた。
さらに奥では、三人の女性クルーが絡み合っていた。ひとりは黒いレースの下着、もうひとりは緑のシルクのブラ、最後は黄色いコットンのショーツを濡らした若い娘。三人は笑いながら倒れ込み、互いの髪を撫で、太腿に指を滑らせている。布地が擦れるたび、濡れた音が芝生に染み込み、甘い香りが空気を満たした。
俺はその場に釘付けにされた。羞恥と昂ぶりが背骨を駆け上がり、息が詰まる。だが同時に、恐怖も込み上げてくる。このままでは自分も彼女たちと同じように幻影に溺れ、理性を失う。そう直感した。
「ここから出なければ……」
俺は震える足で立ち上がった。だが、すぐに足が止まる。
目の前に、先ほどのピンクのコットンショーツの女性が立っていた。頬を紅潮させ、汗で濡れた布地を身体に張り付かせたまま、俺に微笑みかける。
「ねえ、あなたも一緒に……」
次の瞬間、背後から水色のシルクショーツの女性が腕を絡めてきた。肌は熱く、吐息は甘い。俺の腰に彼女の濡れた布地が押し付けられ、理性を削り取っていく。
「逃げなくていいのに……」
さらに白いキャミソールの女が俺の前に回り込み、濡れた布地越しに太腿を押し付けてきた。キャミソールは透明に透け、胸の形がくっきりと浮かんでいる。
「大丈夫。すぐに気持ちよくなるから」
俺は必死に振り払った。汗と吐息と濡れた布地に絡め取られながらも、残った力で三人を押しのけ、通路へ駆け込む。
非常事態ボタン。
それしかない。
俺は走りながら、制御パネルの並ぶ壁へと向かった。汗が視界を曇らせ、呼吸は荒くなる。心臓は寸止めの快感でまだ乱れている。
壁の赤いボタンに手を伸ばし、全力で叩いた。
だが、反応はなかった。
赤いランプは点灯せず、ただ鈍く光るだけ。
「……嘘だろ」
次の瞬間、背後から笑い声が響いた。
振り返れば、ピンクのコットン、青いシルク、白いキャミソール――三人の女性が歩いてきていた。汗と涙で濡れた下着を艶めかしく張り付かせ、妖しい笑みを浮かべながら。
「やっぱり、あなたは特別ね」
「元気な人が欲しいの」
「だから、もう逃さない」
俺は再び走り出した。通路を曲がり、通信室へ飛び込む。コンソールに手を伸ばし、緊急信号を送ろうとする。だが、すべてのボタンは「ロック済み」と表示され、操作を受け付けなかった。
「MOTHER……!」
叫ぶ俺の背中に、柔らかな手が重なる。
ピンクの女が肩に、青の女が腰に、白の女が腕に絡みつく。
三人の体温と吐息が俺を取り囲み、全身を甘美な檻に閉じ込めていく。
「もう大丈夫」
「一緒に行きましょう」
「特別な場所へ……」
俺は必死に抵抗した。だが、彼女たちの濡れた布地が腕に、胸に、脚に触れるたび、全身に寸止めの快感が走り、力が抜けていく。
やがて両腕は頭上に固定され、足元も抱きすくめられた。
顔を覗き込む白いキャミソールの女が囁く。
「もう逃げられないわ」
視界が歪み、赤紫の照明が彼女たちの身体を妖しく照らした。
俺は叫び声を上げながら、三人に引きずられていった。
最後に見えたのは、娯楽室の奥に揺らめく光。
そこには、まだはっきりとは見えないが、巨大な繭玉のような影がいくつも並んでいた。
俺は恐怖と羞恥に震えながら、その光景へと連れ戻されていく。
そして、この悪夢の本当の姿を目にするのは――次の瞬間だった。
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