【短編】風に消えた夏 ─ 紫煙と香水の残り香

Spica|言葉を編む

プロローグ ─ ビッグマン

久々に阪急に揺られて、大阪梅田へ向かう。


待ち合わせ場所は──紀伊國屋書店の上にある、ビッグマン前だった。


「ビッグマン前。学生の時みたいだろ?

そこで、19時に会おう」


達郎のLINEには、そう記されていた。


いまやビッグマンよりも大きなスクリーンが、梅田周辺にはいくつも設置され、待ち合わせなんてスマホひとつで済む時代だ。


着いたら連絡すればいい。


わざわざ人混みの下で立っている必要なんてない。


それでも──。


茶屋町口の改札を抜け、人の流れに身を任せる。


ルクアやグランフロントに客が流れて、ここも以前ほどの雑踏ではなくなった。


それでもビッグマン前に立てば、胸の奥がざわつく。


懐かしい過去が甦る。


まだ二十歳だった、あの夏の記憶。


紫煙と香水の匂いに包まれた、ひと夏の夢のような時間──。

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