第4話
旅人は裏口からモノクロームを出て、モノクロームの下で展開される城下町へやってきた。
城下町には各国の入り口となるゲートや、各色の特産品が売られたお店、学校や住宅地までいろんな施設が揃っている。
さて、どうして旅人が城下町にやってきたのか。
理由は簡単、ちょっとした物資を揃えるためである。
旅人は別の世界に行く時集めたものを全て捨てて別の世界にやってくる。
捨てると言っても誰かにあげたり使い切ったり、断捨離したり…って結局捨ててることには代わりないか。まぁそんな感じである。そのため、旅人は今手ぶらだ。
魔法で何もかもを作り出すことができると言っても流石に手ぶらでこの世界を旅するのはきつい。なので、今は雑貨屋を探して物資を揃えようとしているのだが…。
「…これがないんだよな…」
旅人は一人途方に暮れて呟いた。
お察しの通り、道に迷ったのである。
なんならノワールとブランシュに聞いておけばよかったと、絶賛後悔中である。
いつも真顔で抑揚のない声。
なので旅人は冷静沈着でいつも何を考えているのかわからずノリが悪いタイプだと勘違いされることが多いのだが、こういう時もたまにはある。
旅人は一旦考え始める。
さて、どうしようか、と。このまま途方に暮れていてもいいが、自分でも自覚しているくらい顔には出ずらいので誰かが助けてくれるという可能性はない。
それにせっかくの旅の時間がこのせいでどんどん過ぎ去ってしまうのはちょっと悲しい。
よし、誰かに聞くことにしよう。
旅人はそう決心してまた歩き始めようとした時、どこからか叫び声が聞こえてきた。
「ひったくりよ!!誰か捕まえて!!」
そう女性の声が聞こえたので、声のした方を見ると、ピンク色のドレスに身を包んだピンク色の派手髪のおば…ではなく、マダムがいた。
そしてその方向から真っ黒な覆面をした誰かがこちらに向かって走ってきていた。
「白黒野郎!そこをどけ‼︎」
声は低いので、おそらくこいつは男性だろう。
白黒野郎、というのは僕のことだろうか。
いや、僕以外にそんな奴はいない。
だがここからどくつもりはない。
ここならこの覆面男を確実に仕留められるからだ。
旅人は手を目の前に差し出して男に拘束魔法を使おうとする。
これくらいの魔力ならば、旅人は杖を使うまでもない。
「どけって言ってんだろうが!!」
拳を振り翳してこちらに向かってくる男に向けて、旅人は拘束魔法を使おうとした。
『水よ、あの者を拘束せよ』
誰かの、冷静な声で静かに唱えられたその声は、旅人の耳にはっきり聞こえてきた。
男の手首と足首に透明な水色の何かがつけられ、その男は階段の上から地面まで顔面から落ちて旅人の前まで転がってきた。
…痛そう。
旅人は男のことをじっと見つめた。
男は魚のようにピクピク震えた後、そのまま気絶したようで、まるでシャチホコのように沿っていた足を勢いよくおろした。
「大丈夫か?」
その声は、先ほど呪文を放った者と同じ声だった。
横を見ると、そこには銀髪で緩くパーマがかけられた、銀色の目をした、どこかの学校の制服を着た少女がいた。
「うん」
「そうか」
旅人が頷くと、少女はそれだけ言って、ピンク色の鞄を拾って先ほどのマダムの元へと歩いて行った。
「ちょっとリュンヌ早いー待ってよー」
後ろから気だるそうに旅人の横を歩いて行ったのは、先ほどの銀髪の少女と瓜二つの顔をした金髪で、金色の目をした少女だった。
とても似ていたので、双子なのだろう。
旅人はそう推測しながら、その場を後にした。
だがそのすぐ後に気がついた。
雑貨屋の場所、聞けばよかった。
今から戻ってもなんだか不自然に思われそうで怖い。だがこれ以上進んだら余計に迷子になりそうだ。
旅人は一度、壁付近で立ち止まることにした。
そして先ほどの考えをもう一度思い出す。
確かさっきは、このまま途方に暮れていてもいいが、このままだと貴重な旅の時間を無駄にすることになるってなって…そうだ、誰かに聞こうとしてたんだ。
あ、でも聞き逃したのか。
旅人の頭の中は大混乱状態である。
旅人は自分の頭を抱えようとしたが、グッと堪えて、もう一度考え直そうとした。
「あのー…」
萎縮したような声が聞こえてきたかと思えば、誰かがケープを引っ張ってきた。
旅人は引っ張られた方向を見ると、そこには自分と同じくらいの身長の、先ほどの金髪と銀髪の人と同じ服装をしたクロッカスの髪と瞳の少女がいた。
少女はとても心配そうに旅人のことを見つめている。
「もしかして、何かお困りですか?旅人さん」
女性はそう言って、微笑んだ。
旅人には少女が女神に見えた。
旅人は考えてることが行動に出ないように気をつけながら頷いて女性の手を取った。
「うん。めっちゃ困ってる」
「そうなんですね!何に困りでしょうか?」
旅人はその問いに即答する。
「雑貨屋を探しているのだけど、道に迷った」
「なるほど、雑貨屋ですか…」
旅人のくせして道に迷った、だなんて、とても恥ずかしいことだけれど、今は構っていられない。
少女はそこには触れずに、頭の中で雑貨屋を探してくれているようで、顎に指を添えて何かを思い出すように考え込んでいる。
「そうですね…雑貨屋でしたら。この辺りだとこの道をずっと言った先にある雑貨屋がおすすめですよ。そうだ、ここで出会ったのも何かの縁ということで、ご案内します」
「え、いいの?」
「はい、構いませんよ。困った時はお互い様とよくいうでしょう?」
なんていい子なのだろう、と旅人は心の中で感動した。
「ありがとう」
「はい、ついてきてください」
女性は笑みを崩さずに先頭を歩いた。
このご時世に優しい人も中にはいるんだな、と旅人は思いながら、女性についていった。
「ここです。私はここで待ってますから、必要なものを揃えてきてくださいね」
旅人は頷いて雑貨屋のおじいちゃん店主の元に向かおうとした。
だが、数秒後、旅人は戻ってきた。
「?どうかなさいましたか?」
「せっかく案内してくれたのに、名前、聞いてなかったなって」
旅人はがそういうと、少女は気がついて、勢いよく頭を下げた。
「申し訳ありません!名乗るのを忘れていました!」
「いや、いいよ。気にしないで、僕が気になっただけだから。それで、名前はなんていうの?」
旅人が再度聞くと、少女は頭を上げて答えた。
「はい、私はクロアと申します。この白と黒の国にある魔法学校、レーヴェルヴァイオレット魔法学校の生徒会長を務めています」
レーヴェルヴァイオレット魔法学校…どこかで聞いたことがあるような気がする。
そうだ。モノクロームを建てた友人、アルワが学園長を務めた学校だ。
まさかその学校の生徒と会う日がくるなんて。偶然だろうか。
「そうだったんだ、よろしく。改めて自己紹介するけど、僕は旅人。ついさっきこの世界に降臨したばかりの、異世界を渡り歩く旅人だ。名前はないから、旅人とでも呼んでくれると嬉しい」
「わかりました、旅人さん」
クロアはそう言って微笑んだ。
「それじゃあ、君の名前も聞けたから、そろそろ僕は雑貨屋で必要なものを買ってくるよ」
「はい、いってらっしゃいませ」
旅人はこの雑貨屋の店主と思わしき人物の元へと歩いていった。
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