第十四話:もっといいこと

 森と伊達は正式に“ほぼ同棲”生活を始めていた。二人で選んだダブルベッドは、伊達の部屋の寝室に置かれ、二人並んで眠るための特別な空間となった。

 

 夜、二人でシャワーを浴びた後、森が先にベッドに横になり、右腕を差し出して伊達に向けた。


「ほら、来いよ、伊達」


 そう言って右腕をベッドの脇に差し出す。まるで“ここに来なさい”と言わんばかりの、温かく穏やかな腕枕の誘い。


 伊達は少し照れながらも、ふわりとその腕に頭を置いた。肩に近い位置にそっと頭を乗せ、森の胸に顔を埋める。胸の柔らかさと温かさが伝わり、思わず小さく息を吐き出す。


「森って、いい匂いするんだよね……すごく落ち着く……」


 伊達の声はささやくように甘く、眠気と幸福が入り混じった響きだった。そのまま体を森にぴたりと寄せ、まるで世界で一番安心できる場所を見つけたかのように目を閉じる。

 

 森は胸の奥がギュッと締め付けられるような感覚を覚えた。心臓が早鐘のように打ち、頭の中が真っ白になりそうになる。指先で伊達の髪を撫でながら、内心で何度も叫んでいた。


(もうなんだこれ……かわいすぎてどうしたらいいんだよ)


 それでもなんとか呼吸を整え、理性を保とうとする森。しかし伊達が胸に顔を埋め、やわらかく体をすり寄せてくるたびに、心の中の「かわいいスイッチ」が次々と押され、溶けてしまいそうになる。


(……落ち着け、俺。落ち着け……でもかわいい……いや、もう……ほんとどうしよう……)


 伊達は少しずつ呼吸を整え、肩や胸にしっかりと体を預ける。その温もりは日々の疲れを忘れさせるほどの力を持っていた。森は左手でそっと伊達の頭を撫でる。


 その指先が触れるたびに、胸の奥に熱い幸福感がじわりと広がった。伊達の前髪をそっとかき上げながら、森は思わず笑みをこぼす。


「……あー、かわいいなぁ、伊達……お前、ずるいぞ」


 伊達は寝かけながらも小さく笑い、森の腕に体を預ける。その安心しきった姿を見て、森の胸の中は甘く悶えた幸福感で満たされる。


 布団の上で静かに並ぶ二人。森はもう完全に心を奪われていた。


(ああ、伊達のこういうところ……もう、全部俺のものにしたい……)


 頭を撫でながら、ふと伊達の肩や背中に触れる。小さな温もりに体中が震える感覚。伊達の頭を抱え込み、胸にさらに引き寄せる。森の心臓は胸の中で暴れ、頭の中では「かわいい」の言葉がぐるぐると回っている。


「……もう、伊達、俺、耐えられん……かわいすぎる……」


 思わずつぶやいた森に、伊達は小さな笑いを返す。寝ぼけたように目を半分開け、森の胸に顔を埋めたまま、甘えた声を漏らす。


「ん……森……ぎゅーって……して」


 森は無言のまま両腕で伊達を包み込み、さらに密着させる。互いの体が布団の中で合わさる。その密着から、森の心に隠しきれない熱が広がり始める。伊達の甘えた声と、肌が触れ合う温もりが、森の理性の限界を押し破った。


「……ぎゅー、より、もっといいこと……するか?」


 森は伊達の耳元で、少しかすれた声でささやいた。伊達ははっとして顔を上げる。その瞳にはまだ眠気が残っているが、すぐに甘い期待の光が灯った。


「……うん……」


 微かに頷いた伊達の返事に、森の鼓動は激しく跳ね上がった。森は伊達の顎を引き上げ、深く、そして熱烈なキスを落とす。伊達はためらいなくそのキスに応え、森の首に腕を回した。


 二人の舌が絡み合い、呼吸が乱れ、部屋の温度が急激に上昇する。森はキスをしながら、伊達の薄いTシャツの裾から手を入れ、肌を撫でる。


 伊達の柔らかく温かい肌の感触に、森の指先が震える。伊達は小さく息を漏らし、背中に回された手に力を込めた。森はキスを解き、伊達の顔を両手で挟み込む。


「……俺、お前がかわいすぎて、ずっと我慢してたんだ。もう、限界」


 熱っぽい眼差しで伊達を見つめると、伊達は真っ赤な顔で頷き、森のTシャツを掴んだ。二人はお互いの服を焦がれるように脱ぎ捨て、肌と肌を重ねる。


 森の重みが伊達の体にかかる。伊達の全身から伝わる温もりと柔らかさに、森はもう思考すら停止する。


「伊達……」


 名前を呼ぶ森の声は、もはや切実な響きを帯びていた。森は丁寧に、ゆっくりと伊達の脚を開いていく。伊達は苦しさと快感が混ざったような声で呻き、森の肩を強く掴んだ。


「……んっ……森……」


森は一度、伊達の髪に額をくっつけ、呼吸を整える。


「大丈夫、ゆっくりやるからな……」


 準備が整い、森はゆっくりと伊達の中に入っていく。熱いものが内側から満たされる感覚に、伊達の体がビクッと震える。


「あ……っ、んん……」


 伊達の体にぴたりと密着し、森は動き始めた。愛おしさのまま、優しく、そして徐々に激しく腰が動く。伊達はシーツを強く握りしめ、甘い吐息と喘ぎを漏らす。その表情は苦痛と快楽に歪んでいるが、その根底には深い愛情と信頼が満ちていた。


「んんっ……ふ……森……あ……っ」


 伊達の甘い声が森の理性を完全に吹き飛ばす。森は伊達の首筋に顔を埋め、さらに深く、激しく突き上げた。


「かわいい……伊達……お前、ほんと……かわいい……っ」


 愛と快楽が混ざり合った言葉が、森の喉から絞り出される。二人は何度も、何度も、互いの存在を確かめ合うように体をぶつけ合う。汗で光る肌、絡み合う手足、喘ぎ声とベッドの軋む音だけが、部屋の中に響いていた。

 

 やがて、二人は同時に激しい快感の頂点へと達する。


「伊達……ぁああっ!」

「森……っ!」


 森は伊達の胸に崩れ落ち、熱いものを伊達の奥深くに注ぎ込んだ。激しい愛の証が体に残り、二人は息も絶え絶えに寄り添い合う。森は伊達を抱き寄せたまま、乱れた髪を撫で、何度もキスをする。


「……愛してるよ、伊達」


伊達は森の胸に顔を埋め、言葉にならない甘い声で応えた。


「俺も……愛してる」


 伊達のやわらかい吐息が森の胸に優しくかかる。布団の中で体を合わせ、互いの温もりを感じながら、森の心は歓喜と愛情で満たされていた。


 伊達は疲れてそのまま森の腕の中で眠りに落ちた。窓の外から差し込む柔らかな月光が、部屋の中の二人を優しく照らす。森は伊達の頭を抱き寄せ、耳元で小さくささやく。


「……ずっと一緒だぞ、伊達」


 伊達は微かに微笑み、森の腕に体を預ける。森はその姿を見つめながら、自分の心の中でまた悶えた。


(あー、もう……かわいすぎて死ぬ……でも、この幸せ、手放せない……手放したくない)


 そのまま二人は静かに、そして幸せに包まれたまま、夜を越え、朝を迎える。


 柔らかな光と温もりに満ちたベッドの上で、森と伊達の心は確かにひとつになっていた。

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