俺は野次馬を見てしまう

小さな手 小さな瘡

俺は野次馬を見てしまう

俺は野次馬を見てしまう。

反射的に。

この前の学年集会だって、貧血で真っ青になって倒れた同じクラスの伊東さんに視線を向けている、その生徒達の様子を俺は集中して見ていた。


大体そこにはギョッとした顔、何が起こっているか知りたい顔、異様な空気に笑ってしまう顔が並べられている。

起きていることの真相よりも、野次馬の反応に集中してしまう。

反射的に。

しかしある日曜日の昼が、この行為を絶つきっかけになった。


その日は家族でドライブをしていた。

前方を走っていた軽自動車と対向車のトラックが衝突した。

車内でも響いてくる破裂するような音。

幸いこちらまで被害はなかったが、トラックの衝撃に負け、絵の具を混ぜ合わせたようになった軽自動車の残骸に野次馬が群がり、凝視する。


腰に手をやり眉をひそめる者も、スマホで画面に収めようとする者もいる……と前方、横転した事故車の後部ガラスから妙な視線を感じた。



そこに女の子がいた。



額から血を垂らす女の子。

真っ青な顔に付いたドス黒い碁石のような眼球は微動だにせず、こちらの目玉を突き刺すようにそこにあった。


禍々しい視線に思わず目を背け、

胸の動悸と一気に寒気を呼んだ汗は無限に続くような気がした。

頭が歪む。

意識が朦朧とする。

〈大丈夫⁉︎〉という親の声が遠のく━━。



あの日以降は「何か」が起これば真下の地面を向くようになった。

反射的に。

「何なのか」も確認しないし、野次馬も見ない。

目は閉じない。

閉じればあの血と黒い目を思い出してしまうから。

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俺は野次馬を見てしまう 小さな手 小さな瘡 @A_heart_arrhythmia

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